近刊案内
2024年4月15日
5月以降の近刊
百年の偽善
夏目漱石の『こころ』
5月中旬発売予定
荒 泰人 著
四六判並製 352頁
予価2500円+税
ISBN978-4-7684-5958-4
緻密に作られた作品だからこそ、緻密に読めば読み解ける。
夏目漱石(1867-1916年)の後期三部作のひとつとして名高い『こころ』(1914年刊。あとの二作は『彼岸過迄』『行人』)は、まさにそうした作品であることを解き明かしていく一冊。
通常、『こころ』は、「人間の葛藤とエゴイズム」を描いた名作、あるいは明治天皇の崩御と乃木大将の「殉死」と呼応する作品として文学史に登場するが、著者はその双方に疑問を突きつける。
著者は、漱石自らが著した『文学論』に立脚しつつ、作中で使われた言葉の表現や会話のやりとりに注目する。すると、〈実際に場面として展開していること〉と、それが〈作品全体としてなんのために行われているのか〉に意図的なズレがあることがわかってくる。そしてそれを手がかりに「作品の真」へと迫っていく。
「葛藤している人物/エゴイズムに苦しむ人物」ように見える「先生」は、ほんとうにそのような人物なのか。ある意味「残酷」な読み解きによって、「先生」が何を隠していたのか、先生の死(「殉死」とされる死)とはなんだったのか、これまでにない解釈を提示する。
文学史上不朽の名作とされる『こころ』が、一般の読者にとってもなぜ名作たりえるのか、漱石の小説創作の巧みさとともに明白にしていくスリリングな一冊でもある。
【著者紹介】
荒 泰人(あら・たいと)
1951年、秋田県羽後町西馬音内生まれ。
立命館大学産業社会学部卒業。
2013年、文学部の聴講生として夏目漱石『こころ』と出合い、以降解読に取り組みはじめる。
宗教の終焉(仮)
インクルージョンの視座からの告発
5月下旬発売予定
鈴木文治 著
四六判並製 320頁
予価2300円+税
ISBN978-4-7684-5959-1
本書が取り上げるのは、宗教、具体的には仏教とキリスト教における障害者や同和地区の人々への差別や排除の実態である。仏教において、障害は「因果応報」の理法で解釈されてきた。例えば仏教説話では、経典を誹謗した者は障害者の姿で生きることとなる、前世の報いを受け今世で障害者として生まれたと説かれる。
神はすべての人を等しく愛しているとするキリスト教においては、「人は心で信じて義とされ、口で公に言い表して救われる」が金科玉条として掲げられる。言葉を話せない障害者、聾唖者や知的障害者には教会の門戸すら開かれてこなかった。
本書は、経典や教義にも踏み込み、宗教が障害者差別、更に部落差別を助長してきたことを明白にする。更に、宗教者が第二次世界大戦中の日本でとった態度を明るみにし、その戦争責任にまで踏み込む。
障害者教育を専門とする教師とキリスト教の牧師という立場から、当事者を見つめ続けてきた著者。怒りに満ちた告発と、著者自ら取り組むインクルージョンの理念と実践という展望の書。
【著者紹介】
鈴木文治(すずき・ふみはる)
1948年長野県飯田市生まれ。中央大学法学部法律学科及び立教大学文学部キリスト教学科卒業。川崎市立中学校教諭、神奈川県教育委員会、神奈川県立盲学校長・県立養護学校長、田園調布学園大学教授、日本キリスト教団桜本教会牧師等を歴任。
リプロダクティブ・ジャスティス
引き裂かれる性と生殖の権利
9月上旬発売予定
一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ 編
A5判並製 208頁
予価2000円+税
ISBN978-4-7684-5957-7
一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェが2022年に開催した連続講座「引き裂かれる性と生殖の権利」の講演録を加筆・修正し、新たな内容を加えて書籍化。
「リプロダクティブ・ジャスティス=性と生殖の正義と公正」は、90 年代からアメリカの黒人フェミニストやセクシュアリティが掲げてきた。性と生殖の権利を語る時、例えば貧困層や移民、人種的マイノリティの女性たちの権利は周縁に追いやられ、そこにはジェンダー以外にも様々な差別があることを見落としてはならないというインターセクショナリティ(差別の交差性)の指摘であり、@子どもを持たない権利、A子どもを持つ権利、B安全で健康な環境で、子どもの親になる権利を要求してきた。さらにセクシュアル・マイノリティやセックスワーカーの経験から性的自己決定権及びジェンダーの自由も重要だとされる。これまでの議論の中で見落とされ、「つけ加え」として扱われてきた人たちの経験から、日本で生きる私たちにとってのリプロダクティブ・ジャスティスを問い返すものである。
【著者紹介】
ジェンダーと多様性についての一般向け講座を開催する「ふぇみ・ゼミ」(2017年設立) と、ジェンダーと様々なテーマをつなぐアート&カルチャーの公演やイベントを開催する 「ゆる・ふぇみカフェ」(2014年設立)が共同で設立した非営利型一般社団法人。 差別の交差性(インターセクショナリティ)の視点に立って、@講座、公演、展示などの企画・開催A若い世代の研究者、アクティビスト、アーティストの育成B調査研究と提言活動などを行っている。