現代書館


 裁判員制度について国民の理解を得るために、マスコミも様々に報道している。その中では珍しく、障害がある人が裁判員になった場合について、裁判所のアクセス整備(エレベーター・スロープ設置)や手話通訳や要約筆記が配置されること、裁判用語に関する手話を創製していることなど、時々に紹介している。珍しく、と書いたのは障害者に特定した制度(例えば障害者自立支援法)が発足するときなどには障害者の存在を意識した報道がなされるが、例えば現在の不況下、派遣切りやリストラなど、連日大量に流される雇用に不安の報道の中に障害者に関するものはほとんどない。巷の流行から自然災害まで、マスコミがマス(大衆)を対象に記事を書くとき、その対象者の中に障害者はまず想定されていない。そのように感じていたので、今回の裁判員制度に関しては、それなりに障害者も対象とすることを前提に報道されていることに「珍しく」と思ったのだ。
 
 それもそのはず、今まで一定の障害があるという理由だけで特定の職業に就くことを禁止したり、門前払い(「精神障害者は銭湯お断り」など)する障害者欠格を定めた法律は294、自治体の条令を入れたら何千とあり、その差別性を指弾されて2000年代にかなりの法改正をしてきているので、法務省はその轍を踏むことなく、裁判員制度という新制度をスタートするにあたり、障害があることだけをもってして裁判員になれないとはしなかったのだ。つまり様々な障害をもつ人が裁判員(候補)になることは織り込み済みなので(最高裁の裁判員制度のHPには、イラストに車いすの人も入っている)、法務省・最高裁は報道機関にそれなりのアナウンスをし、主だった当事者団体、関連団体からヒアリングもしている。
 
 では、実際に障害をもつ人が裁判員になって支援が必要な場合の運用はどうなっているのか、必要とする人にその情報が届いているのかといえば、決してそうではなさそうだ。模擬裁判では、手話通訳や点字資料を使用した事例もあったようだが、中途失聴者や難聴者のなかには手話が分からない人も多く、同様に中途失明者のなかには点字の読めない人も多い。見えない・聞えないといっても必要な支援は一様ではない。そうした個別の事情に対応するのは地方裁判所らしいが、それは裁判員候補になって初めて知らされる。聴覚障害者が裁判員になる場合の情報保障について、自身も中途失聴者の田中邦夫さんが最高裁に問い合わせたところ、当時(4年前)最高裁のホームページには住所と電話番号しかなく、文書で質問したところ半年待っても返事がなく、仕方なく人に頼んで電話をかけてもらったところ、「文書回答はしない」と言われたそうだ。今ではHPにメールアドレスも入っているが、原則個別回答しないというのは当時のまま。一方、法務省のほうはメールの問い合わせ可能であり、問い合わせると簡潔な答えが返ってきているという。裁判員制度を推進する当事者である最高裁と法務省のこの違いをどう捉えるべきか。

 その他にも、障害をもつ人が裁判員(候補)になったときの情報保障のあり方については多くの問題点が残されている。そのあたりは『季刊福祉労働』123号(6月25日刊)の特集「情報保障・コミュニケーション支援」に、先の田中さん他の方が詳しく展開されているので、そちらを参照していただきたい。


 情報保障に関して問題点は承知しているが、とりあえずこのまま行くしかないというのが、推進側の考え方のようで、そこからは「すべての国民に開かれた」と言いながら、個別の対応は各地裁に任せて、今の運用では事実上裁判員制度に乗れない人はご辞退くださいという本音が透けて見える。
 
 裁判が司法のプロだけによるのでなく、普通の人の常識、生活者の視点で判断されるべきということの是非は置くとして、ならば情報取得や発信に困難がある人(聴覚・視覚障害者や知的障害者、日本語の不得手の人など)がきちんと参加できるように情報保障がされた裁判は、誰にとってもわかりやすく情報が伝えられているということであり、この制度の理念に合致しているはずだ。司法制度始まって以来の大改革ならば、真面目に理念を追求してほしいものだ。(猫)

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