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WEBマガジン 12/12/18


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第四回

投稿者:斎藤美奈子 2012/12/16

森さま

 ごめんなさい。年末進行で昨日までバタバタしていました。
 北朝鮮の「ミサイル」「ミサイル」という報道にうんざりしながら、森くんの「当事国も他の国も誰もミサイルとはいっていない」という意見を思い出します。なんかさ、選挙のたびに「北朝鮮のミサイル騒ぎ」をやってると思わない? 意図的なものを感じますね。 

 というわけで本日は総選挙の当日です。
 自民党の過半数超えがほぼ確定という、絶望的な状況が24時間後には訪れるのでしょう。いまから早くもげんなりです。3年前の政権交代って何だっただろうとは思います。思いますけど、だからといって、また自公政権(しかも2度目の安倍晋三!)に戻るって、この国はどうなってんだと思うことしきり。
 いまの自民党は、改憲して自衛隊を国防軍にすると公言してはばからない、完全な右翼政党といっていいでしょう。核武装もじさない維新の会とやらは、そのさらに右を行く極右政党。民主が昔の自民党くらいの保守政党。左側は全滅に近い。原発続行を掲げる自公路線に戻ることで、この1年あまりの「反原発」の盛り上がりも水泡に帰すのでしょうか。何の反省も、路線変更もできなかったんだね、この国は。

 以下は、発売中の「婦人公論」に書いた原稿です。この直後に「日本未来の党」ができたわけですが、さすがに準備不足は否めず、「使える屋台村」とは思えません。
 24時間後に暗〜い気分になっているにちがいないので、いまのうちにアップしておきます。

ここから引用
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 早く解散しろしろと野党にせっつかれながら「近いうちに」とかわし続けてきた野田佳彦首相だったが、11月16日、ついに衆院は解散。12月16日の総選挙に向けて混迷の日本は走りだした。
 2009年の政権交代から三年四ヶ月。この三年は何だったのだろうという話は前にも書いたけれども、その後、事態はさらに悪化し、気がつけば永田町はワケわからぬ十いくつもの政党が乱立する魑魅魍魎の巣窟と化していた。魑魅魍魎がいいすぎなら「あきれた商店街」でもいいですよ。ともかく街を右から左まで歩いても「よっしゃ、ここで買ったろか」と思わせる店がない。

 まず政権与党に復帰する気満々の自民党。自民党はそりゃあ老舗の百貨店ですよ。しかし、ここが何でも売ってる大型百貨店だったのは大昔の話。なにしろいまの自民党は、一度失脚した安倍晋三というゾンビみたいな人物を恥ずかしげもなく再度社長に選んじゃうほどセンスのズレた店なのだ。安部社長の政治理念は参院選で惨敗した2007年から何も変わっておらず、改憲、教育再生、日米同盟を軸にした強い外交……。
 選挙戦突入後はデフレ脱却が最優先だとかいってるが、この党が政権に返り咲いたら、私どもは社長と社員の個人的な趣味としか思えぬ改憲論議にまたもやつきあわされること必至。対中・対韓関係が険悪化するのも必至。商店街の中でも相当右に位置する百貨店。エネルギー政策も旧態依然だし、店内にはカビが生えている。

 一方の与党民主党は、三年前に華々しくオープンしたのに、テナントが次々と抜け、もはや何が売り物なのかわからなくなったショッピングモールである。
 もともと寄せ集め所帯に近い店だったとはいえ、分水嶺は八月に成立した消費増税法である。七月中旬にはこれに反対して小沢一郎ひきいる四九名(うち衆議院議員は三七名)が抜け「国民の生活が第一」という新ショップを立ち上げた。その後も、TPPに反対、脱原発への姿勢が不明確などで離脱する人は後を絶たず、政権交代時に308あった衆院の議席は解散時には過半数(240)を割る233にまで落ち込んだ。
 解散後の会見で野田社長が掲げた五つの柱には「2030年代に原発をゼロにする」「排外主義に陥らない冷静で現実的な外交」などが入っていて、自民党より少しはマトモに見えるが、昔のいい方だと中道保守ですよね、これは。ドジョウを自称し「中庸」を理念に掲げる野田社長は最初から「おもしろくもおかしくもない」という印象を与える人だった。大敗するのを承知で衆院を解散するのだから根は意外に剛胆なのかもしれないが、閑古鳥が鳴きはじめたショッピングモールに、もう客を呼び戻す力はないだろう。

 では、この選挙をにらみ、急ごしらえで新規オープンした日本維新の会はどうか。新しいファッションビルと同じで、一見おもしろおかしく見えるので、新しいもの好きのメディアに「第三極」なぞと持ち上げられ、お客を呼ぶ力はありそうだ。でも、冷静に考えてみてちょうだいよ。看板が新しければ何でもいいのか。社長は任期を二年半も残して都政を投げ出した石原慎太郎前都知事、社長代行は現役の市長のくせに市政より国政に熱心な橋下徹大阪市長なんですぜ。無責任の二枚看板じゃないですか、ここんちは。
 事実、この二人はよく似ている。自治体の長としての実績(福祉の切り捨て、教育への介入、派手なイベント)も、政治理念(改憲、核武装、強い外交)も、政治手法(放言、暴言)も。それに比べりゃ税やエネルギー政策の差は「小異」なのだろう、彼らには。
 ただ、外装が新しいだけで、ここも売ってるものも戦前の焼き直しかというほど古くさい。渡辺喜美の「みんなの党」や河村たかしの「減税日本」がテナントとして加わったところで新自由主義経済路線が強化されるだけで、カビの生えた安部百貨店と区別がつかない。商店街の右端で客の奪い合いでもしててくれ。

 えーと、あとはどこだっけ。公明党はだいぶ前から自民党の事実上の支店だし、商店街の左のほうに位置する社民党と共産党は売ってるものにブレはない老舗だが、経営手腕てものがない。社共の二店が合併するなり解党するなり大胆なリニューアルを決行して攻勢に出れば、かなりの数のお客を呼べるはずなんですよ。でも、いまのままじゃダメ。外装といい内装といい、あまりにも古いから。ウチの店は創業当時と変わらぬ良品を売っていますといくら宣伝しても、量販店から人材を引き抜くパワーもない、商店街の再編に汗をかく気もない古ぼけた店では、だれも相手にしてくれまい。
 個人商店みたいな他のミニ政党や新政党が期待できないのも同じ理由。政治は最後は数だから、屋台がいくら乱立しても選択肢にはなりえない。せめて民主党の左隣に使える屋台村をつくってよ。と思っても、願い空しく商店街は右側ばかりが発展する。選挙というは祭りに浮かれている間はまだいいが、祭の後の2013年の商店街を想像するとゾッとする。
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引用終わり。あーあ。




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投稿者:森 達也 2012/12/16

 今日は16日。何もする気になれない。だから(連載なので仕方なく)新潟日報に書いたコラムを以下に引用します。今はこれが限界。
 テレビを見ていると、「民主党がひどすぎた」的なことを口にする人がとても多いけれど、でも何がどうひどかったのかと訊いたら、たぶん明確に答えられる人は少ないと思う。小沢起訴に始まって震災や原発対応や尖閣問題など、負のイメージばかりが強調されたけれど、良い方向に変えたことはたくさんあったと思う。そもそもが全部、自民党の負の遺産じゃないか。
 やはりメディアは怖い。集団は怖い。本当にそう思います。


 今日の日付は12月17日。つまり選挙翌日だ。
 ・・・とここまで書いて、このあとに何を書けばよいのかわからなくなった。昨夜からずっと、ある意味で放心している。
 実は今回は、新潟の天気について書くつもりで、もう半分以上書き進めていた。でも昨夜、選挙の結果を伝えるテレビの番組を眺めながら、原稿の残りが書けなくなった。
 署名入りのコラムとはいえ、掲載される媒体は新聞紙面だ。あまり政治的な思想信条を表明すべきではないとは思っている。だから今回は選挙について書くつもりはなかった。ほぼ結果がわかっていたからだ。触れないようにしようと思っていた。でもさすがにこの結果には驚いた。呆然とした。
 念を押すが、僕自身は民主党を熱烈に支持しているわけではない。でもこれほどに圧倒的な結果が出るとは予想していなかった。
 選挙数日前から、新聞各紙では自公圧倒的有利との記事が載り始めていた。根拠はそれぞれのアンケート調査だ。14日は朝日新聞の論壇委員の合評会があった。会が終わったあとの雑談で、「こうして記事が出ると、投票は逆に働きますよね」と僕は記者に訊いた。数秒の間を置いてから、記者は首を左右に振った。
「いわゆるアンダードッグ効果ですね。Aが優勢と報道されれば劣勢なBを応援したくなるという人間心理。判官びいきとも言います。確かにかつてはそうでした。96年の衆院選などが典型です。だから新聞やテレビなどで優勢などと報道されることを、党や候補者は嫌っていました。やめてくれと抗議してきた政治家もたくさんいます。でもここ数年は、まったく事情が変わってきました。むしろ反転している。優勢と伝えた党や候補者に、さらにより多くの票が集まるようになってきました。つまりバンドワゴン効果です」
バンドワゴンとは欧米のパレードなどで行列の先頭を走る楽隊車のこと。多数派に多くの人が身を寄せるという現象だ。秘密保守が不完全で誰に投票したか分かるかしれないとの恐れがあるとき、バンドワゴン効果は強く働くといわれている。でももちろん、かつてと比べて日本の選挙制度が杜撰になったわけではない。ところが「勝ち馬に乗れ」的な意識が、とても強くなっている。つまり集団化だ。
同日に行われた東京都知事選では猪瀬直樹前副知事が圧勝。国内選挙の個人最多得票記録を更新したという。これもやはりバンドワゴン効果と見ることもできる。
いずれにしても自公合わせて325議席。参院で否決されても衆院で再可決することが可能になった。ならば憲法は変わる。原発は維持される。安倍自民党総裁はこれを明言していた。つまりほぼマニフェストだ。そして国民はこれを支持した。本当にいいんですねと周りの人たちに訊きたいけれど、それをしたところで今さら遅い。
・・・やっとの思いでここまで書いた。小選挙区制度の問題。一票の格差の問題。低下する投票率の問題。書きたいことや書かねばならないことはたくさんあるけれど、これ以上はもう無理だ。
最後にひとつだけ言いたい。前回は民主党の大勝利。そして今回。小泉郵政選挙時代から始まって、あまりにも振幅が激しすぎる。船が左に傾けばみんなが右に押し寄せる。そして右に傾けば左に押し寄せる。結果として船は揺れ続ける。僕は船酔いで何もする気になれない。部屋に戻ってベッドに横になる。


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投稿者:現代書館(菊地)2012/12/17
昨夜は、早々に寝ました。テレビを見るのが嫌になったもんで。秘書をやっている友人たちは失業ですね。前回自民党から移った秘書さんもいたようですが、さすがに私の友人たちは、自民の議員には行かないでしょうね。
そもそも(なんて言いたくないけど)メディアと一緒になって、小沢落としを謀った、民主の「とっちゃん坊や」たちでは、勝ち目はないよ。小沢を堕とすことにを画策したアメリカの陰謀に手を貸した「とっちゃん坊や」たち。あのとき、小沢悪しのレッテルがここまでなくて、小沢にやらせてたら、少しはマシか。でも原発事故時の小沢もおかしかったしね〜。憲法改悪が本当に身近になった。問題はあるにしても、現憲法はマシですよ、安倍や石原が考えている憲法よりは。

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