現代書館

WEBマガジン 13/08/06


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第十一回

件名 :いきなり閑話休題だけど、

投稿者:森達也  2013/07/24(Wed)

 
王室がある国は世界中にたくさんあるのに、なぜイギリスばかりがこんなに話題になるのか不思議です。ベルギーやモロッコやカンボジアやノルウエーの国王や王女について、たぶんほとんどの人は名前すら知らないだろうな。

毎日のように報道されている山口放火殺人事件(呼称がよくわからない)についてだけど、行方不明になっている男性を、なぜメディアはすべて「男」と呼ぶのだろう。彼が犯人かどうかはまだわからない。彼の遺体がこの後に見つかる可能性だってないわけじゃない。ところがメディアはすべて判で押したように「男」。
僕の記憶では数年くらい前から、容疑者に対してマスメディアは、「男」や「女」との呼称を使うようになりました。でも容疑者の定義は容疑をかけられている人。ならば「男性」「女性」と呼ぶべきだと思う。
まして山口のこの事件の場合、彼はまだ容疑者ですらない。重要参考人のはず。犯人と特定できるだけの材料はまだない。でもメディアは当たり前のように「男」。
そもそも「男」や「女」との呼称は好きじゃない。読者や視聴者に媚びている。こんな悪い奴は許しません的な卑しさを感じます。
もちろん無罪推定原則も含めて、建て前的な要素は大きい。でも理由があるから建て前がある。それを安易に崩していいものじゃない。

メディアの言葉についてもうひとつ。今回の参院選については、各メディアが(やっぱり判で押したように)「ねじれ」という言葉を使いました。そして選挙から一夜明けたら、メディアはすべて当たり前のように「ねじれ解消」を連呼していた。
「解消」という言葉を使うことで以前より良くなったとの意味が強調されるけれど、本当にその意識を持って、メディアはこの言葉を使っているのだろうか。
衆院と参院とで多数派を占める政党が違うことが良くないというのなら、そもそも二院制は何のためにあるのだろう。どちらも同じ政党が過半数を占めるなら、党議拘束で法案はすべて通過することになる。ならば参議院が存在する意味がわからなくなる。それでなくても衆院のカーボンコピーなどと言われているのに、それを前提にするつもりなのだろうか。今後は与党の法案が摩擦なく成立することが健全な民主主義であると、メディアは本気で思っているのだろうか。

言葉の使いかた、あるいはニュースのプライオリティ、これらの要素がどんどん崩れています。ところがその自覚はない。崩れるなら崩れていい。壊すなら壊していい。でもその自覚くらいは持つべき。とても嫌な状況です。

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