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夏、熱気と愁傷の季節

夏、熱気と愁傷の季節

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H00037

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 バッター、またもファール!
      この打席、終わりません。



 今年も甲子園の季節がやってきました。すでに沖縄県・北海道では地方大会が開催中で、若者たちが聖地を目指して奮闘していることでしょう。ちなみに昨年は私の母校が夏の甲子園に出場ということで、にわか高校野球ファンになり、楽しい野球観戦を体験しました。
 昨年の優勝校は初の春夏連覇が話題となった沖縄の興南高校です。真紅の優勝旗が初めて沖縄へと渡った瞬間でした。
 まだ沖縄が占領下だった頃、検疫を理由に、高校球児は甲子園の砂を海に捨てなければなりませんでした。さまざまな歴史を背負わざるを得ない彼らは、積年の雪辱を果たし、素晴らしい快挙の夏を刻んだのです。

 今年も66年目の沖縄慰霊の日がやってきて、夏の始まりを告げます。この頃になるとテレビでは沖縄戦の番組を連日連夜流しますが、そこに出てくる米兵たちを、沖縄の人たちはどんな気持ちで見ているのかな、と思った瞬間、基地が頭をよぎりました。
 沖縄の人びとはいつでも米兵を見ている。いまも「占領」され続けているのです。
 かつて自宅のあった土地に、先祖の眠るお墓に、大切な故郷に帰れない人々がたくさんいます。「故郷を返せ、海を返せ」――。
 この言葉は、今や沖縄だけの言葉ではありません。福島第一原発周辺で被災し避難を強いられた人びとの言葉とまったく同じです。
 事故が起こって、多くの人びとは初めて「被曝の恐怖」にさらされました。マスクや水が売り切れ、洗濯物が室内干しされ、校庭の砂がひっくり返されました。しかし、ずっと前から被曝の恐怖にさらされている人びとがいたのです。――原発で働く下請け作業員たち――「原発ジプシー」です。

 この福島原発をはじめ3カ所の原発で下請け労働者として潜入し働き、その実体験を綴ったルポルタージュ『原発ジプシー――被曝下請け労働者の記録』(堀江邦夫著/2100円)が、32年ぶりに増補改訂版として刊行されました。
 本書で描かれているのは「原発労働の実態」ではなく、「原発労働『者』の実態」です。
 現在この未曽有の事態をきっかけに、本書は多くの方に関心を寄せていただき、多くのメディアに取り上げていただきました。きっかけは、たしかに福島原発「人災」事故でした。
 しかし、数々寄せられる読者の感想、本書を取り上げてくれたシンポジウム、メディアのなかで改めて驚愕とともに紹介されているのは、「電気は被曝者を前提に作られている」という事実です。30年以上前初版が出版された当時ですら「コンピュータ管理だと思っていた」との感想が寄せたれたというのに、21世紀になった今でもなお、原発は電気と被曝者を同時に生みだし続けているのです。
 原発推進の声のひとつとして、よく「原発に反対するなら電気使うなよ!」という言葉があります。そういう愚か者には「原発に賛成するなら故郷と海を返せよ!」と言いたい、と一時期思っていました。なんにせよ馬鹿げた水かけ論ですね。どちらも空砲です。
 そんな空想を飛ばし合うのではなく、電気が必要な私達の暮らしが、実は被曝者をも必然としている、という恐るべき事実と今こそ向き合い、そして解決しなくてはなりません。
 福島の瓦礫のなかで奮闘する作業員たちの労働問題が取り沙汰されるようになりました。この悲劇をきっかけに、犠牲を取り除いた仕組みを、暮らしを、考えるときです。

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 とある球場で、異様なゲームが行われています。
 何が異様なのでしょう?
 0×0でむかえた9回裏。フルカウント。なぜか最後のバッターの打席が終わらないのです。なぜバッターが居続けているのでしょう。答えは簡単、耐球しているからです。ファール、またファール。いったい何球を過ぎたのでしょうか。
 これだけでも異様なのに、さらに不可思議なことには、誰もバッターを応援していないのです。味方アルプスからはブーイングが飛び、ベンチからはサインも来ません。
 いったい、この試合は……?
 耐球し続けるというのも立派なものだと、誰か褒めてあげればいいのにな、と思わざるを得ません。
 目指すは原発推進デッドボールでしょうか? それとも脱原発ホームラン?
 ぜひとも皆の鼻を明かして下さいよ、菅さん。(香)


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