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パンツは一生の友だち

パンツは一生の友だち――排泄ケアナース実践録

装幀 渡辺将史

西村かおる 著
判型
四六判並製 248ページ
定価
1600円+税
ISBN978-4-7684-5633-0

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生きてれば排泄トラブルは自然なこと。お年寄り、障害者、先天性疾患、病人、それらの切実な悩みに対処している「カリスマナース」が深刻な話を暗くならず読ませる。ユーモアある話を読みながら、身に付く排泄についての役立つ情報が満載。

[著者紹介・編集担当者より]
オシッコ・ウンチ、加齢と共に生活に密着した問題だが、他人には言いにくいし、分かって貰えない。排泄で世界中を回っている「専門ナース」が、本当に様々な実例を明るく語り、読んで面白く、心地よい排泄で人生快調になる本です。(宮)

【プロローグ】

プロローグ 射精は排泄か?.l.l ある早春の宵、コートの襟をかき寄せながら、知人の出版記念パーティーに向かった。

仕事がら、医療・福祉関係者との懇親会などは結構あるし、同じ職種の人たちの集まりは比較的気軽なのだが、その日の主人公は『ランニングの世界』という雑誌の編集委員仲間で、いったいパーティー会場にどんな人がいるのかわからなかった。 
知らない人と出会うことはワクワクする楽しいことだが、ちょっと気が重いのは、自己紹介である。

おいしい飲み物や食事を手に、「私は排泄を専門にしている看護職です」と言うのには、相手の顔色を見る必要がある。

「頻尿、頻便、尿・便失禁だけでなく、便秘や排尿困難など出ないほうも専門です」なんてことを私なりにできるだけスマートに言ったつもりでも、「排泄」そのものがすでにタブーなのか、受け手によっては一瞬引き、私と無難な距離を保つためにバランスをとろうとするのがわかる。

その瞬間、たぶん、これが世間一般の常識なのだと感じる。逆に、とても興味を持って乗り出してきてくれる人もいる。

自己紹介はある種、賭けのようなものだ。
その点、同職種だと「排泄」は日常用語として使い、何より自分たちが苦労していることなので何を言ったって心配はないどころか、大いに盛り上がれるのだが。
 気後れしながら入ったパーティー会場はびっしりと人がいて、背伸びしながら、隅のほうにいたランニング仲間と話している主人公をみつける。

ほっとしながらお祝いの言葉を伝えたら、「挨拶してください」と言われてしまった。
一瞬戸惑うが、全員に自己紹介してしまえば、何度も自分の仕事を説明して、いちいち個人の反応に気をつかわなくてすむか、と考え直し、思い切ってご挨拶させてもらった。.l 

私の職業にいたく興味を持ってくださったのは、主催者である出版社の社長さんだった。

社長さんの「排泄って具体的には何のことですか?」という素朴な質問がきっかけで、この本が生まれることになった。.l 

「排泄は、教科書的には、生物が代謝して身体に不要となった老廃物を身体の外に出すことです。

一般的には排尿・排便のことを指します。あくまでも私の考えですが、広い意味で涙は心の排泄物で、不要なものを出すということでは月経や射精も入ると思っています」「エッ、射精も排泄!? 月経は理解できますが、射精がどうして排泄になるのですか?」

「精子も古くなると新しい元気なものに取り替える必要があり、古いものは捨てなくてはいけないからです。

それに性交したとしても受精できる精子は原則的には一つですから、あとは身体から排泄されてしまいます」
「うーん……。それはわかるが、しかし射精が排泄とはとても思えないなあ」と納得できない様子。

そこで逆に「月経が排泄と理解できて、射精が排泄と思えないのはどうしてですか?」と私から質問。

「僕の考えでは、排泄は勝手に出ていくもので、射精は違うと思うからです」「でも夢精がありますよね」
「はあー、そっかあ。懐かしい、昔、昔の経験だなあ〜」「赤ちゃんのとき以外は、排泄は勝手に出ていくわけではなく、尿も便もコントロールして出しています。

それができなくなったら失禁となり、生活上大変やっかいな問題となります」.l 以前助産師から聞いたナプキンやタンポンのないアフリカ、そして古い日本でも、骨盤底筋という膣を締める筋肉を使って、月経血を排泄してよい場所でのみ意図して出してコントロールしていたという話もした。「どうしても射精が排泄と思えないのは、排泄は努力しなくても普通に出せるけど、射精はそれなりに思い入れが必要だからですかね」

「正常な排泄は当たり前に何の努力もなくて出せますが、神経の障害を持ったりして出すことができなくなると大変な苦痛を伴います。病気がなくても便秘で困っている人は多いのですよ」「そうだっ。わかった。排泄は出さないと身体に害だが、射精は害がないところが違うのでは?」という社長さんの意見を受けて、私は以前、電話相談を受けた男性のことを思い出した。.l.l 

私はNPO法人日本コンチネンス協会(英文名をNPO Japan Continence Action Society)という非営利団体の代表をしている。
この会は「全ての人が気持ちの良い排泄ができる社会創り」を使命とする。コンチネンスとは、失禁の反対語で、排泄がコントロールできる状態を表す英語で、日本語の専門用語では禁制となる。
ちなみに失禁は英語でincontinence、コンチネンスは否定形の接頭語inを外し、肯定形とした言葉だ。これは健康と不健康と同じくらい意味が違う。
肯定形であるコンチネンスケアは、排泄障害の予防、排泄障害の完治、そして排泄障害が障害として不可逆的に残った場合、それが生活上問題にならないようにマネジメントすることを示す。排泄障害があっても問題なく生活できる状態はソーシャルコンチネンスと表現される。 イギリスには、コンチネンス・アドバイザーと呼ばれるコンチネンスケアを専門とする医療職が各地域にいて、気持ちの良い排尿・排便ができるように日々働きかけている。

私はイギリスで訪問看護のコースを学んでいる時にコンチネンス・アドバイザーに出会い、訪問看護のコース修了後、コンチネンスケアを学んだ。
帰国後一九八九年に会を立ち上げて、コンチネンス活動を展開してきた。.l NPO法人日本コンチネンス協会では、中心活動の一つに相談業務があり、一九九〇年より無料電話相談を開始した。
社長さんとの会話で、その電話相談にかかってきた男性からの相談を思い出したのである。.l その男性は二十代前半で、出生時のダメージで脳性麻痺となった方だった。 知的レベルは高いが運動機能に障害が残り、会話も何とか聞き取れるくらいで、寝返りをはじめとして、食事もすべて介助が必要とのことだった。
日常介助のほとんどは母親が行っていたが、母親が突然に亡くなってしまったという。
精神的なショックはもちろんだろうが、たちまち日常生活でも困難を呈した。特に排泄に関しては、二十四時間ついていてくれ、尿意を催せばすぐに介助してくれる人がいない。
また若く、泌尿器は正常なため、尿量も多い。介助もなく一人でどのような対処ができるか、という相談だった。それにはコンドームタイプでペニスにつけ、集尿袋につなぐ男性用集尿器などを紹介したことを覚えている。.l その時に受けたもう一つの深刻な相談が射精だった。母親は、定期的に手を使って射精をさせてくれていたという。
しかし、母親が急死してからは、頼める人がいず、その結果、心理的なストレスだけではなく、射精できないことから眠れず、血圧が著しく上がり、頭痛や吐き気を催して困っているという相談だった。この相談を私は性的な欲求処理というより、排泄困難と受け止めた。身体的苦痛が前面に出ていたからだろう。
対応策として、父親か、信頼できるヘルパーに相談し、おむつの上から刺激してもらうことができないか、検討してもらうように勧めた。
後日、ヘルパーに理解者ができたという報告とお礼の電話が入って、ほっとしたことを覚えている。.l 
すっかり忘れていたこのケースのことが、社長さんの意見が導火線となったように急にフラッシュバックしてきた。
そこでかいつまんで相談内容を伝えると、社長さんは「奥が深いなあ〜」とため息をつき、結論からいうと、続きは本で、となったのである。

☆6/2 SANKEI EXPRESS、6/11 高知新聞、7/5 徳洲新聞他で続々紹介されています!


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