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小説 外務省

小説 外務省――尖閣問題の正体

装丁 中山銀士

孫崎 享 著
絶賛発売中!
判型
四六判 上製 288ページ
定価
1600円+税
ISBN978-4-7684-5730-6

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『戦後史の正体』の著者が書いた、日本外交の真実。事実は闇に葬られ、隠蔽される<つくられた国境紛争>と危機を煽る権力者。外務省元官僚による驚愕のノンフィクション・ノベル。

「この本の主人公は外交官である。1977年生まれ、名前は西京寺大介。2022年のいま、彼は、尖閣諸島の扱いで外務事務次官に真っ向から反対し、外務省から追い出されるか否かの瀬戸際にいる……。」の書き出しで始まる本書は、尖閣問題での日中の争いの正体の本質を日米中の政府高官を実名で登場させ、小説仕立てで詳細に描き出している。2012年から始まった尖閣諸島を巡る、争いの立案者は誰か。何故そのような馬鹿げたことが、起こったのか。日米中の資料を駆使し、日本外務省の内幕を一気に読ませるノンフィクション・ノベルである。今年話題沸騰間違いなしの書籍である。日中間領土紛争は争わずに解決する途があることをわかって欲しい。

【著者プロフィール】
1943年、旧満州国鞍山生まれ。1966年、東京大学法学部中退、外務省入省。英国、ソ連、米国(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、イラク、カナダ勤務を経て、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て2002〜2009年まで防衛大学校教授。

【プロローグ】
この本の主人公は外交官である。1977年生まれ、名前は西京寺大介。2022年の今、彼は、尖閣諸島の扱いで外務事務次官に真っ向から反対し、外務省から追い出されるか否かの瀬戸際にいる。多くの人が彼の行動をいぶかるだろう。「黙って勤務していれば大使と呼ばれる職に就く。なぜそれを捨てるのか」と。

西京寺は石川県の鶴来で生まれた。加賀はかつて一向一揆衆によって支配され、「百姓のもちたる国」といわれた。100年近く門徒の百姓たちが治め、1人の百姓が絶対的な権力をふるうこともなく、また、権力のある1人の百姓に媚びへつらうこともなかった。権力に迎合するのを極端に忌み嫌う土地柄なのである。

そこで育った彼は、東京大学を経て、1999年に外務省に入り、ロシア語の研修を命じられ、最初の2年間はハーバード大学で、3年目はモスクワ大学で研修を受けた。彼に大きな影響を与えたのはロシア勤務である。ソ連・ロシアは最も全体主義的な国家だ。弾圧が厳しい。ここで自由を求めて闘う人々がいる。犠牲を伴うことを承知の上でだ。

国際ジャーナリスト連盟は、2009年に「ロシアでは1993年から約300名のジャーナリストが殺害されたか行方不明になっている」と伝えた。そのほぼすべてが政府の批判を行っている。民主化弾圧と闘うロシア人は、多くの場合、逮捕され、シベリアなどの過酷な収容所に送られる。この中で国際的に最も著名なのはアンナ・ポリトコフスカヤである。彼女は次のように書いた。
「権力機構に従順なジャーナリストだけが“我々の一員”として扱われる。報道記者として働きたいのであれば、プーチンの完全なる奴隷となることだろう。そうでなければ、銃弾で死ぬか、毒殺されるか、裁判で死ぬか―たとえプーチンの番犬であっても」
ポリトコフスカヤは自らの予言どおり、2006年、自宅アパートのエレベーター内で射殺された。

これらのジャーナリストはなぜ自分の命を犠牲にしてまで、ロシア政府を批判するのか。この現象は何もプーチン政権特有の現象ではない。ソ連時代もあった。ロシア帝国時代もあった。権力と闘える人、それがロシア・ソ連の文化人の資格かもしれない。

この国に勤務する西側の外交官や情報機関の人間は、権力と闘うロシア人に共感し、時に助ける。やがて彼らは自国に帰る。そして、自国の政治や社会状況を新たな目で見、その腐敗に驚く。
「なんだ。腐敗しているのはロシアと同じではないか」と思う。彼らの中に、自国の政治や社会状況が問題だとして闘い始める人間が出る。

これが最も顕著に出たのは2003年のイラク戦争の時だ。ブッシュ政権は大量破壊兵器があるという口実のもとにイラク戦争を開始した。米国や英国などの情報機関の相当数の人間は、イラクが大量破壊兵器を持っていないことを知っていて、それを組織の中で主張した。チェイニー米国副大統領(当時)は彼らを脅した。
「君は今、ブッシュ政権の下で働いている。ブッシュ政権はイラク戦争を実施する。君はブッシュ政権に忠実なのか、否か。忠実でないなら今すぐ去れ」

政権への従属を取るか、主張を貫くか。情報部門のかなりの人が職場から去った。米国や英国には従属の選択をせずに闘う人間がいる。西京寺もその1人である。彼は権力に迎合するのを忌み嫌う土地で育った。さらに、政治の腐敗や弾圧と闘うロシア人の気風を受け継いだ。

しかし、日本の社会に問題がなければ、彼が動くことはなかった。
日本は驚くほど危険な国になっている。それは10年ほど前の2012年頃から顕著になってきた。映画人がそれを敏感に感じ取っていた。この頃公開された『少年H』の宣伝文句には「軍事統制も厳しさを増し、おかしいことを『おかしい』と、自由な発言をしづらい時代となっていく中、盛夫は、周囲に翻弄されることなく、『おかしい』、『なんで?』と聞くHに、しっかりと現実を見ることを教え育てる」とある。これは、日本社会が「おかしいことをおかしいと自由に発言しづらくなっている」ことに対する警鐘であろう。また、映画監督の宮崎駿は引退宣言で「世界がギシギシ音を立てて変化している時代に、今までと同じファンタジーを作り続けるのは無理がある」と語った。

同じ頃、原発再稼働反対の立場で、最前線で発言していたのが新潟県の泉田裕彦知事である。彼はあるインタビューに答え、「もし僕が自殺なんてことになったら、絶対に違うので調べてください」と言った。しかし、彼はその後、原発再稼働に対する態度を軟化させ、「一部では『政府が知事のスキャンダルを探している』『特捜検察が泉田知事を徹底的に洗い始めている』といった怪情報が飛び交っていた」と報道された。

この頃から日本は、「正しいこと」を「正しい」と言えない国になってきたのだ。日本の社会は、あちらこちらでギシギシ音を立て、変容してきている。その音は日増しに大きくなっている。一方、「おかしいこと」を「おかしい」と言っても、摩擦が生じ、ギシギシ音がする。西京寺はその音の一つだ。たまたま音を出す場所が外務省だった。彼の心にはあるべき外務省員の姿がある。しかし、それを貫こうとする時、摩擦が起こる。

強力な相手に対峙する中で異なった意見を発することに意義があるか――彼は自らの生き方そのものを問うことになる。その模索の旅がこの物語のテーマである。そして話は少し遡り、2012年2月から始まる。


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