現代書館

WEBマガジン 21/11/02神谷和宏


第3回 怪獣図鑑・怪獣百科、ウルトラ授業のこと(中)

テレビ番組の真正性

 『ウルトラマン』の世代体験のお話もしていただきました。おっしゃるようにリアルタイム世代の方々の体験した一回的な感覚は重要ですね。確かに切通さんも私も、ウルトラマンがゼットンに敗れることやゾフィーの存在を事前に知っていたわけです。『ウルトラマン』最終話の展開を作品そのものによって、日本中の他の子どもたちとライブ的に目の当たりにした衝撃というのは再放送世代の者には体験できないことです。と同時に、リアルタイムの経験や、初期の作品ばかりを重んじなくても良いのではという考えにも賛成です。
 『ウルトラマンメビウス』「思い出の先生」では、ウルトラマン80=矢的猛のかつての教え子たちがウルトラマン80を見て「俺たちのウルトラマンだ!」と言いますが、あの言葉ってすごく重要で、自分にとってのウルトラマンは、エースだという人も、コスモスだという人もいる。これはライダーであれ、スーパー戦隊であれ、『ガンダム』や『プリキュア』であれ言えることでしょう。何も作品人気を決定づけた初期の作品やエポックメーキングになった作品だけではなく、自分の思い入れのある作品やキャラクターを推して良いんだということをストレートに明言してくれたセリフでした。
 『ムーミン』の原作者のトーベ・ヤンソンは、日本で最初にアニメ化された『ムーミン』を諸々の点から肯定的に評価しなかったと言います。原作者がそう言っている以上、真正性という点では疑問符が付きます。しかし、あのアニメ作品を見てきた世代にとってはあれこそが自分の『ムーミン』であることに相違ない。原作では「スノークのお嬢さん」と称されているキャラクターは、(おそらくアニメ化される際に便宜的に名付けられた)「ノンノン」にほかならない。つまり作り手(原作者)にとっての真正性と、受け手にとっての真正性は必ずしも一致しないのだと思います。それを「あなたの知っているムーミンは本物のムーミンじゃない」というのは仮に原作推しの人であってもむやみに言うべきではないと思うし、このことは、「仮面ライダー」と違って、わかりやすい「原作」がないが故に、初期作品が一層、原典化されることの多い「ウルトラ」においても同じなのだと思います。
 「ライダー」が過去作の世界観をあまり損なわずに、例えば『仮面ライダー(スカイライダー)』で、仮面ライダーV3の変身後の決めポーズや、仮面ライダーストロンガーの「天が呼ぶ…」の名乗り口上を再現し、変身前の役者を出すなどのゲスト客演を行っていたのに対し、「ウルトラ」では一時、その辺がおざなりになっていたこともありましたが、現在では作り手もその辺を重視した客演の回を作っており(最近では『ウルトラマンZ』でのエースの客演ですね)、ますます自分の好きな、“あの時のヒーロー”を推せる時代になったように思います。


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