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WEBマガジン 26/03/31


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第173回

件名:文学を読む仕事があってよかった
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 前回の貴君の若き日のバイト秘話、おもしろかったです。すっごいメジャーなCMを手伝っていたんだね。映画監督・森達也の原点という感じでしょうか。
 「グルメ系の番組でタレントが何かを食べる瞬間、「カプチョ!」みたいな効果音をつける。それがどの番組もみな一緒。あとはバラエティ番組の再現VTRのときにスタジオにいる一般見学者たちが発する「えー」とか驚く声や笑い声。もちろんこれも効果音としての後付けだ。とにかくうっとおしい」←ここ、笑った。カプチョ! たしかに。

 ちょっと「昔話に逃避」の感もありましたけど、私も政治向きの話題はあんまり書きたくないです。2月8日の衆院選以来、自民党の劣化ぶり(今に始まったことではないが)、と高市政権のあまりの傲慢(+無能)をずっとウォッチしてきて、さすがにちょっと疲れたよ。
 
 私はSNSというものをやっていないので(何が話題になってるかは見る)知らなかったのだけど、「みなこの記事が炎上してるよ」といわれ、何が、と思ったら、東京新聞のこのコラムだった。引用しときます。

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選挙後の症状
 選挙後「高市鬱」という言葉がネット上を飛びかっている。「あ、それ私」と思った人もいるんじゃないだろうか。
 仕事にも家事にも身が入らない。ニュースを見たくない。体調が悪い。ため息が出る。何をしてても気が滅入る。
 周辺に「いいよね高市さん」とか言う人がいるともう最悪である。
 どこがいいの。「だってなんかやってくれそうじゃん」。なんかって何よ。「それはわかんないけど」。わかんないのに支持するんかーい。
 非支持者には地獄。メンタルもやられます。
 こういう時は気休めも大事である。まず数字。すでに指摘されている通り、自民党の議席数こそ316だが、得票率は小選挙区49%、比例37%。有権者全体に対する絶対得票率は27%。みんながみんな高市支持ってわけでもないのである。
 16日、朝日新聞が電話世論調査の結果を発表した。それによると、自民党が3分の2超の議席を得たのは「多すぎる」が62%。国民の賛否が分かれる政策は「慎重に進めるほうがよい」が63%。力を入れてほしい政策は物価高対策が最多で51%。それに対して外国人政策は9%、憲法改正は5%、大方の市民の意識は穏健なのだ。
 このような穏健な市民意識と、暴力的な選挙結果の楽差が絶望を生む。それゆえの鬱。あなたが変なわけではないってことだ。(東京新聞、本音のコラム。2月18日)
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 炎上というほどではないにせよ、ここで「鬱」という語を使うのは、病気の人に対してけしからんとか、そういう人たちがいたみたいね。でも「高市鬱」は、私が発明したわけじゃないからね。「#高市鬱」がX上で飛び交っているのをみて「うまいこというなあ」「まったくだよ」と思ったのが発端。実際、私も鬱でしたよ、しばらく。

 それから1か月半たって、事態はもう「鬱」のレベルではなく、実害が出るところまで来ている。ネタニヤフとトランプのイラン攻撃は、高市のせいではないにせよ、いくらなんでもひどすぎる。独裁者が戦争を始めると最悪なことになるという例。であるのに、彼女はアメリカにまでいってトランプにベンチャラをいい、友好関係にあったはずのイランとの交渉は進まず、このままだともうすぐ石油は枯渇する。ガソリンの値段が上がっていないのも不気味です。

 3月26日から備蓄された石油の放出をはじめたと報道されているけど、ヤバいでしょこれ。もう私は「第三次オイルショック」を覚悟してるよ。
 「繊維製品、プラスチック、洗剤、ポリ袋、ペットボトル、医療器具、化粧品などの多くは石油を化学分解するなどして作られており、こうした幅広い製品の値上がりにもつながります」とこの種の解説記事には書かれているけど、値上がりならまだマシで、実際には、市場からこれらが消えるのではないだろうか。3・11のあと、スーパーやコンビニから、いろいろものが消えたじゃない? ああいう風になるんじゃないですかね。

 ここから後は「逃避ネタ」です。

 22年の4月から、私は朝日新聞の読書面で、月に1度「旅する文学」という連載をやっているんだけど(誰にも読まれていない気がしますが)、それがいよいよあと2回で最終回を迎えます。47都道府県にゆかりの文学作品を1回1県ずつ紹介する企画なんですが、3月が北海道、今週の土曜日(4月4日)に載る予定なのが沖縄、5月が東京で終わりです。
 
 これがさあ、けっこう大変なんだよね。
 1回の紙面で紹介できるのは、せいぜい7作品なので(時にはもっと詰め込む)、どの作品に絞り込むかでまず悩む。12〜13作くらい読んで、悩みつつも半分近くに減らします。
 で、原稿に落とし込むわけですが、1冊に割り当てられるのは、せいぜい200〜250字。全3巻とか全5巻とかの大作もあるので、インプットとアウトプットの労力を考えると、むちゃくちゃコスパとタイパが悪いっす。15行程度なら、テキトーに読めばいいや……とも思うのだけど、小説がやっかいなのは、最後まで読まないと「ほんとのところ」はわからないこと。ドンデン返しとか平気であるからね。物語が佳境を迎えるのも後半だし。
 昔読んだ作品も、当然リストには入れていて、「読んだ本だからすぐ書ける」かと思いきや、私には「読んだ本の内容をすぐ忘れる」という特技があって何も覚えておらず、初読と同じ。

 ここまではまー通常の作業ですが、この欄は校正にむちゃくちゃ手間をかけます。文字通り、本と原稿を照らし合わせて一字一句点検する。それが7冊、8冊ですから、担当者は本当に大変。そのたびに質問が来て、もう一度本を見直し……という作業を続け、校正の回数は10回くらいになるんじゃないかな。そのぶん精度は高いはずですが、そういう風には見えませんよね。コスパ悪し。

 こういう連載を4年続けてきて思うのは「文学を読む仕事があってよかったな」です。文芸評論家とか名乗ってるわりに、私はもともとそんなに文学コンシャスな人間ではなかったのですが、旧作を読んで書く作業に没頭してると、現実の政治とかはどうでもよくなりますね。
 とくに北海道と沖縄の文学は、歴史と対峙している分、非常な力作が多く、目を開かされる思いでした。ちなみに4日掲載分では『キジムナーkids』も取りあげています→菊地さん。

 そういうわけで、私はいま、47都道府県のご当地文学にはたいへん詳しいです。みんなが思っているより、作品数は多いです。問題はしかし、こういうことに興味のある人がきわめて少ないことです。自分の出身県や在住県の作品には、みんな関心があるだろうと思っていたけど、そうでもないのね。自治体の観光課くらいは興味持てよ、ゆるキャラより文化的だぞ、聖地巡礼をさせろよ、と思うのですが……。以上、べつにおもしろくはないお仕事ネタでした。
 
2026.3.31
斎藤美奈子

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