現代書館

WEBマガジン 12/12/17


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三回

投稿者:森達也

美奈子さんの『DAYS JAPAN』の連載コラム、たまたま読んでいました。というか、ほぼ毎週『DAYS JAPAN』には目を通しています。毎回コラムを読みながら、過激だなあと感心しています。誰が「弱腰外交の平和主義者」なのだろうと思うけれど。
 まあそれはともかく、なぜそもそもの発端である石原都知事尖閣購入宣言についてマスメディアは検証しないのだろうとずっと思っていたので、なるほどそういうことかと膝を打ちました。
 時代は確実に変わっています。9月21日付のワシントン・ポスト紙は一面で、日本の武器輸出3原則緩和や集団的自衛権行使に向けた憲法改正の動きなどを詳細に伝えながら、「徐々にだが、右傾化への重要な変化の途上にある」と指摘しました。石原がヘリテージ財団で行った講演では、「東京都が尖閣諸島を購入する」との宣言以外に、「占領憲法の改正」と「日本の核武装のシミュレーション」も表明しているんだよね。元在沖縄総領事で「日本人は、和の文化を強請りの手段に使う」「沖縄は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人でゴーヤーも栽培できないほど怠惰」などの発言で話題になったケビン・メアが『文藝春秋』10月号で、アメリカにとっては双方とも重要な同盟国であるとの理由で竹島問題における日韓の融和を説きながら、尖閣諸島については一転して、日本は中国の脅威に対処するために「F−35戦闘機の調達計画を加速、拡大してイージス艦を増やし、先島諸島に自衛隊の駐屯地を作って、海上保安庁の偵察能力を向上」すべきであり、日本の施政(領有ではない)下にある尖閣防衛について、「日本は何も遠慮する必要はない」からどんどんアメリカの兵器を買うべきだと主張しています。
 石原のヘリテージにおける演説とメアの寄稿文を並列して読めば、その狙いと本質は拍子抜けするほどにわかりやすい。だいたい石原は横田基地返還を公約にしていたはずなのに、今はまったく口にしなくなってしまった。でも石原への批判は立ち上がらない。代わりに寄せられたのは、尖閣購入のための15億もの寄付金。ちなみにヘリテージ財団は、日本国内で脱原発の世相が高まることについても、「日本の原発撤退は米国、世界に悪影響を与える」とのレポートを発表しているらしい。

 美奈子は北海道。僕は先日まで沖縄でした。沖縄にはもう何度も来ているけれど、これまではいつも自作映画の上映がらみだったので、空港から劇場に直行して舞台挨拶、夜は劇場関係者やお客さんたちとお酒を飲み、翌日は二日酔い気味で東京に戻るという旅程ばかりだった。つまり立ち寄ったのは劇場と酒場とホテルだけ。
 今回も「311」上映初日の舞台挨拶がメインであることに変わりはないけれど、少し長く滞在したくなり、4泊5日のスケジュールにしてもらいました。滞在中にちょうどオスプレイの試験飛行が岩国で行われたので、いろいろありました。それについては次回。毎日泡盛を飲み歩いていたので、ゲラやら入稿やらで今大変です。

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投稿者:森達也:2012/11/26

少し旧聞ですが、この五月に放送されたNHKスペシャル「未解決事件 File.02 オウム真理教 17年目の真実」で、既に死刑が確定した井上嘉浩から、番組ディレクター宛てに届いた手紙が紹介されています。見ながら僕は唖然としました。その手紙で井上は、自身が法廷で証言したリムジン謀議を、自身で完全に否定しているのだから。以下に手書きの文章をそのまま引用します。
「実はリムジンでは、たとえサリンで攻めても強制捜査は避けられないという点で終わったのです」
地下鉄サリン事件における麻原の共謀共同正犯を裏づける唯一の証拠は、井上が証言したリムジン謀議です。他にはない。ところが井上本人が自らの証言を否定した。ならば裁判はやり直されねばならない。だって動機が消えたのだから。念のために、地下鉄サリン事件についての麻原一審判決要旨の一部を以下に貼ります。
 被告人は、首都の地下を走る密閉空間である電車内にサリンを散布するという無差別テロを実行すれば阪神大震災に匹敵する大惨事となり、間近に迫った教団に対する強制捜査もなくなるであろうと考え「それはパニックになるかもしれないなあ」と言ってその提案をいれ、村井に、総指揮を執るよう命じた。(中略)被告人が最も恐れるのは、教団の武装化が完成する前に、教団施設に対する強制捜査が行われることであり,それを阻止することが教団を存続発展させ,被告人の野望を果たす上で最重要かつ緊急の課題であったことは容易に推認される。
 でも番組内でこの手紙は、とてもあっさりと使われていた(ただしあっさりではあるけれど使われたということは、暗にメッセージを込めたとの可能性もあります)。いずれにせよ視聴者のほとんどは、井上のこの新たな証言の意味を理解しなかった(としか思えない)。今に至るまで、この手紙についての反響はまったくない。もしも当時の裁判官と検察官が番組を観ていたら蒼褪めていたかもしれないけれど、その後にまったく反響がないことで、やれやれと胸を撫で下ろしていることでしょう。
これらの新しい要素を新章として追加した「A3」文庫本が、12月中旬に発売されます。単行本刊行から二年。異例な早さだけど、麻原処刑前に少しでも多くの人にこの本を届けるためにと、版元である集英社インターナショナルが、異例に早い文庫化を決断してくれました。
実は斎藤さんがいま忙しい理由のひとつは、この文庫の解説を頼んだから。すいません。


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投稿者:森達也

一年ちょっとで今の職務を投げ出すことについて、なぜメディアは批判しないのだろう。なぜ東京都民は怒らないのだろう。何のための選挙だったのか。横田基地はどうするのか。尖閣購入で集めた十四億円は何に使うのか。新銀行東京の大赤字はどう処理するのか。大金をつぎ込んだ五輪招致はどうなるのか。目眩がします。


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投稿者:森達也 :2012/12/08(Sat)

杞憂。
極端な心配性や取り越し苦労のこと。中国の杞に住んでいた男が、「いつか天が落ち、地が崩落してしまうのではないだろうかと心配して、夜も眠れず食事もとれなくなるほどに衰弱してしまったという故事に由来する熟語。出典は『列子』。

子供の頃に杞憂の意味を知ったとき、何と昔の人は思慮が足りないのだろうとあきれました。でもたぶん今から数百年が経ったとき、こんな熟語があるかもしれない。

日憂。
極端な心配性や取り越し苦労のこと。21世紀初頭の日本の政治家やメディアや一般国民たちが、北朝鮮が打ち上げるロケット実験の際に上空から破片が落ちてくるのではないかとか軌道が変わるのではないかと心配して、「破壊措置命令」を発令しながら一兆円でアメリカから購入した「PAC3」や「SM3」(二つの組み合わせで購入したのは世界でも日本だけ)を配備して大騒ぎしたという故事に由来する熟語。

もちろんアメリカは多少は騒ぐさ。お得意様なのだから。韓国ではほとんどニュースになっていないと韓国の友人が言っていました。

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