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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第164回 |
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件名:AI に尋ねた現代書館のこと 投稿者:森 達也
美奈子さま
今月の僕の手紙はちょっと変則。この往復書簡の担当で現代書館の代表でもある菊地泰博さんが、前回の美奈子さんの手紙に対して書いた返信メール(僕もCCされている)を、まずは以下に貼ります。
斎藤美奈子さま ありがとうございました。 私は、昔は朝ドラを楽しく観てました。 でも、いつのころからはモーニングショーに替わってしまいました。 しかし、今年のドラマはチョコチョコ見ます。 仕事で、高知に二年半住んでましたので、土佐弁が懐かしいです。 高知の旅館で、毎日見てたのは「おはなはん」だったか「雲の絨毯」だったか、そんな時代です。 戦争中のことは、母が、愛国婦人会だか国防婦人会だかのタスキを掛けて演説しているのを微かに覚えています。 母の記憶です。 「母外出跣で追った泥の道」
こんな句(?)を作りました。 菊地
メールをペーストすることに菊地さんの了解は得ていない。嫌がるかな。でもこのメールを読んで、なんか僕と美奈子さんだけで専有することが惜しくなった。 >母が、愛国婦人会だか国防婦人会だかのタスキを掛けて演説しているのを微かに覚えています。 へえええ。そうなのか。現代書館を創設した菊地さんは、全共闘世代だから僕らより一回り上の世代。以前に誰かから、創設メンバーである菊地さんと金岩さんと村井さんは同世代で共に運動に関わったけれど挫折して、ならば書籍で自分たちの思いを届けようと考えて作った出版社だよ、と教えられたことがある。嘘か本当か知らない。裏は取ってない。でもたぶん事実だと思う。 僕にとっても現代書館は、とても縁が深い出版社だ。何といってもいちばん最初の書籍『「A」撮影日誌――オウム施設で過ごした13ヵ月』は現代書館が板元で、村井さんが担当だった。 書きながらいろいろ思い出してきた。そもそもなぜ本を書こうなどと思ったのか。オウムの撮影時は会社をクビになって基本的には撮影以外に時間がたっぷりあったので、撮影に行ったときはメモ代わりに日誌を何となく書いていた。で、公開前だか直後に、プロデューサーの安岡卓治から、「それを本にしよう」と提案された。 「本?」 「メディアミックスだよ」 この言葉を前面に打ち出した角川映画の全盛期はもう終わっていたけれど、安岡はとにかくこれにこだわった。……ここまで書いてまた思い出した。映画『A』の試写はとにかく盛況だった。多くのメディア関係者が足を運んでくれた。ところがどこも記事を書いてくれない。苛立った安岡が旧知の記者に連絡すると、その多くから「私は個人的には傑作だと思うし記事を書きたいけれど上が認めてくれない」と言われたという。結局記事やパブリシティはほとんど出ない。ならば監督のおまえが自分で書け、ということだったような気がする。 でもコピーした原稿をバッグに入れて教えられた大手出版社をいくつか訪ねたけれど、やっぱり反応は鈍い。個人的には面白いと思いますがウチで出版はちょっと無理ですね、こんな言葉を何度も聞いた。そんなときに村井さんを紹介されて、出しましょう、と即決で言われたのだ。 言うまでもないことだけど、それまで本など書いたことがない僕にとって、自分の名前で本を上梓するなど夢物語に近い。これははっきり覚えているけれど、喫茶店で村井さんと出版前の打ち合わせをしていて、部数は何十万部くらいでしょうか?と質問してあきれられたことを覚えている。だってさあ、本を一冊出せば夢の印税生活だと本気で思っていたもの。 とにかく『A』だけではなく、その後も現代書館にはずいぶん世話になった。平成天皇と皇后を主人公にした冒険SF小説を書いたとき、ほとんどの大手出版社からは軒並み断られて、最後に菊地さんから「ウチで出しましょう」と言われたときには(もちろんとにかく嬉しいしありがたいしほっとしたけれど同時に)、二十年かけてぐるっと回って同じところにいるような気がして少しだけ複雑だった。 この原稿を書くために現代書館と菊地さんについてAI(ChatGPT)に質問した。いろいろ教えてもらったけれど、最後にAI自身がまとめてくれた要約を以下に貼ります。 1967年創業、東京・飯田橋を拠点に専門書や思想書を展開。 全共闘世代の思想潮流を背景に、批評・思想・学術的テーマに強み。 2017年50周年には「ロシア革命特集」など、歴史・思想への意識が鮮明。 菊地泰博社長は「知識を大衆へ」という出版の使命を鮮明に語る。
菊地さんについても訊いた。本論に入る前のAIの「個人的な」感想みたいなものも面白いので、そこもそのまま残して以下に貼ります。
以下は、現代書館代表の菊地泰博さんによる出版業界や会社経営に関するインタビューの一部を抜粋したものです。業界のリアルや経営者としての覚悟が伝わってきます。 業界構造に対する問題意識(出版研究室 Vol.5 より) 「同じ出版業界の版元でも零細と大手では全然違うと思います。例えば正味について弊社では全社員が知っていますが、大手出版社のなかには…『えっ正味って何?』というようなことはよくあります」 菊地さんは、中小出版社のきめ細かい経営意識と透明性を重視。 対照的に、大手では「制作・編集・営業・取次に関する情報格差」が大きいと指摘しています。 「弊社も自慢じゃないけど全然儲かっていません。…従業員には申し訳ないけど、賃金はあまり上がっていません」 小規模出版社ならではの厳しさを語りつつも、社員との信頼関係を重視。 「私は今日明日食えないわけではない。…でも若い人はそうはいかない。…社長が年金生活ですからね(笑)」 自らの年金を凍結し、社員への賃金を優先する姿勢が垣間見えます。
菊地さん、AIからの評価高いね。良かった。 ちょっと話は逸れるけれど、ChatGPTはずっと抵抗があって使わなかった。でも妻から絶対に使うべきと言われて(つい最近)試してみたら、これが本当にすごい。いろいろびっくり。いずれChatGPTについても書きます。
NHK朝ドラ、僕も菊地さんと同様に毎朝観ているわけではないけれど、両親を日本軍兵士に殺された中国の少年が泣きながら復讐を果たした回とか、確かに被害一辺倒ではなく加害にも、というか加害にこそしっかりと戦争の実相を込めようとしているドラマ制作者たちの覚悟は、充分に伝わってきます。
森 達也
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