現代書館

WEBマガジン 13/01/09


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第五回

件名:第二次安倍内閣が発足しました

投稿者:斎藤美奈子 2012/12/27

 予定通りです。いま(12月27日の未明)、NHKで新閣僚の記者会見を放送しています。みんな原稿を読んでいます。だれが書いた原稿なのでしょう。いつも思うけど、準備がおよろしいことで。っていうか、せめて原稿なしで語る「ふり」くらいしろよな。そのくらいの演技力でなれるんだね、政治家って。

 総選挙のあった16日以来、2〜3日は絶望し、1週間ほどはムカムカしていましたが、怒濤の年末進行で仕事に追われているうちに、だんだんこの状況にも慣れてきました。日本という国は(あるいはこの国の人々は)はじめからこの程度だったんだよ、と。
 前回、森君がバンドワゴン効果について書いていましたが、「寄らば大樹の影」で「長いものには巻かれろ」が、この国のスタンダードだとすれば、その延長扇状にバンドワゴンもあるわけで、それは森君も同じだろうと思うけど、べつに驚きゃしません。
 12月18日の東京新聞が「小選挙区24% 比例代表15% 自民 民意薄い圧勝」という見出しで、負け惜しみみたいな記事を載せていました。
 〈自民党の勝利は、必ずしも民意を反映したものではない。多党乱立と低投票率が自民党を利した結果であるということが、はっきり分かる〉というのです。
……………………………………
 衆院選の投票率は小選挙区で59・32%。戦後最低を記録した。
 一方、自民党の得票率は小選挙区が43・01%。比例代表は27・62%。ただし、これは投票した人の中での比率だ。
 全有権者に占める比率は24・67%、比例代表は15・99%となる。選挙区でも比例代表でも自民党候補や党名を書いた有権者は「少数派」だ。
 ところが、自民党が獲得した議席は小選挙区で定数の79%にあたる二百三十七議席、比例代表は、同31・67%の五十七議席だった。(東京新聞・12月18日)
……………………………………
 自民党が大勝ちしたといっても、それは小選挙区制のマジックで、自民に投票した人は、じつは4人に1人だけだった……といってるわけですね。そうかしれません。しかし、だからといって、世間が「反自民」だと強弁することはできない。やはり民意は安倍自民党という右翼政党を選んだのです。選んだ結果、今後考えられるのは……。
(1)脱原発への道は遠のく(この路線を築いたのはそもそも自民党。情報は隠蔽され、止まっている原発は着々と再稼働へ向けて動き出し、原発立地の地元自治体は万々歳)。
(2)虎視眈々と改憲へのレールが敷かれる(全衆議院議員の75%超が9条改正派。すでに3分の2を超えているが、自民は公明を捨てて、維新、みんなと組む可能性もあり)。
(3)経済格差がますます広がる(自助の名の下に社会保障の切り捨てが進む。自公民の三党合意による「一体改革」もそっちの方向だったが、自民はもっと露骨にやるだろう)
(4)教育現場がますます荒廃する(教育基本法改悪でもわかる通り「教育再生」と称する安倍の政策はそもそも最悪。教師や組合への締め付け。道徳教育の強化……)
(5)ナショナリズムがますます元気づく(選挙中の勢いに比べれば、安倍の態度は軟化したが、もともとの安倍支持層は納得すまい。今度こそ靖国参拝も決行する気だろう)
 
 とまあ、私は考えるわけですが、自民に投票した「民意」は全然別の方向を向いているらしい。〈衆院選の結果を受けて朝日新聞社が17、18日に実施した全国世論調査(電話)では、自民中心の政権に交代することを「よかった」と思う人は57%で「よくなかった」16%を大きく上回った〉(朝日新聞12月18日)そうですからね。
 民主党も(特に野田になってからは)全くあてにならなかったけど、しかしグラグラして情けなかった(押せば動く可能性があった)分、自民よりは相対的にマシだったと考えるしかありません。しかし、民主党も、海江田新代表は「維新」とも「みんな」とも共闘するつもりがあるとかいっている。「こいつも、全然わかってないな」です。

 〈安倍内閣の最重要課題は、日本経済の再生である〉と読売新聞の社説(12月27日)はいっています。この社説は、ほとんど為政者気取り。少しだけ引用します。
……………………………………
 社会保障財源を確保するため、消費税率を着実に引き上げていく必要がある。それには、後退色を強める景気を下支えする大規模な補正予算の編成が急務だ。
 経済再生に向けて、首相は経済財政諮問会議を復活させ、新たに日本経済再生本部を置く。二つの組織を経済の司令塔として、しっかり機能させねばならない。
 野田政権の「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針では電力の安定供給が揺らぎ、産業空洞化も加速する。これを早急に撤回し、現実的な原発・エネルギー政策を再構築すべきである。
 少子高齢化と人口減で中期的には国内需要の縮小が避けられない。日本の成長に弾みをつけるには環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を決断するしかない。(読売新聞・12月27日)
……………………………………
 「民意」を誘導しているのは、巨大メディアだってことがよくわかります。いや、もともとわかってはいたけれど、ここまで「バンドワゴン効果」が如実に表れるとすると、新聞もそりゃ、はしゃぎたくなるでしょう。「民意」が意のままに動くんだから。
 自民圧勝って選挙戦の最中にいわれたら投票に行く気もなくなるし、焦点は「経済の立て直し」だといわれたら、「景気対策」目当てで自民に投票した人が61%(原発は16%、外交安全保障は15%。朝日新聞12月14日)という結果になる。
 私たちはすぐ「メディアが悪い」って話になりますが、漠然と「メディアが悪い」「メディアリテラシーを磨こう」とかいってる場合じゃないのかも知れない。事態はもっと悪化していて、「巨大メディア(大新聞とテレビ)こそが敵」なのかも。
 民主党政権が早々に潰されたのは、現行のメディアをめぐる悪弊(記者クラブ制度やクロスオーナーシップ制)に手を突っ込もうとしたことと関係があると私は思っています。いまさらですが、彼らこそが「保守の牙城」なんだよね。ジャーナリズムはとっくに脳死していたのさ。
 絶望していても始まらないので、なぜリベラルは負けたのか、右派権力(もはや保守なんてレベルではない)とどう闘うか、お正月に考えてみようと思います。
 よいお年をお迎えください。
 
 

…………………………………………………………………………


投稿者:森達也 2012/12/29

>ここまで「バンドワゴン効果」が如実に表れるとすると、
ポイントはそこだと思う。2000年の衆院選(いわゆる神の国解散)までは、まだ辛うじて「アンダードッグ効果」があったそうです。でも小泉政権が始まるころから、この国の「勝ち馬に乗れ」的なメンタリティが急激に強くなった。
 要するに少数派への異物感がますます強くなった。あるいは(自分が)少数はでありたくないとの気持ちが強くなった。
 先日、水族館に行ってきました。イワシの群れを見てきた。飽きないですね。数千匹が一糸乱れず同じ行動をしているようだけど、やはりじっと見ていると中には、時おり周囲と同じ行動をとれない個体がいる。でも一瞬ですね。あわてて群れと同じ動きをする。
 群れは学術的には自己組織化と称されるけれど、ハチやアリなどに見られるように、一つひとつの個体レベルではまったく発想できないほど賢明で洞察力のある行動をする。でも人間の場合は、おそらくこれに当てはまらないのだろうな。歴史を眺めても、群れで動いたときは決してろくなことにならない。
右傾化などと人はよく言うけれど、僕はやっぱり今のこの国を支配しつつあるルールは集団化であり、それが疑似右傾的な行動をとらせているのだと思う。
 このあいだ編集者に聞いたのだけど、数年前に彼が石原慎太郎にインタビューしたとき、「中国・・・」と言いかけてからあわてて「シナ」と言い換えたんだって。たぶん「家では中国って言っているんでしょうね」と笑っていた。要するに石原にとってのバンドワゴンは「シナ」なのだろうな。
 今年はこれが最後かな。愚痴ばかりの一年でした。谷垣新法相は死刑制度について記者会見で、「国民感情や被害者感情からみても、死刑制度を設けていることには相応の根拠があると思っている。死刑を執行するとなると自分が最終的には決めなければならないが、裁判所の判断を尊重しながら、法のもとで対処していかなければならない」と述べたけれど、来年は麻原処刑が行われるのだろうか。
 自分が犯した罪どころか、自分が誰でどんな状況にいるかもわからないほど意識が混濁した人を吊るすその瞬間、この国のデモクラシーは完全に窒息すると思っています。

【最新記事】
GO TOP
| ご注文方法 | 会社案内 | 個人情報保護 | リンク集 |

〒102-0072東京都千代田区飯田橋3-2-5
TEL:03-3221-1321 FAX:03-3262-5906