現代書館

WEBマガジン 13/04/02


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第七回

件名:体罰問題はそれから?

 投稿者:斎藤美奈子 2013/4/1



キャー、すみません。
今年になってから一度も書き込みをしていなかったとは、自分でも信じられません。ご心配をおかけして申し訳ありません。お許し下さい。

 そうこうしているうちに、今日からもう新年度です。
 この3ヶ月間の「床屋談義」的話題でいうと、私が気になっていたのは、体罰の問題、原子力規制委員会、それとTPPでしょうか。
 ひとまず、2月の共同通信で配信した体罰問題についての原稿をアップします。あれから2ヶ月近くたっているのに、事態は全然かわってないのも「どーよ」です。

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 体罰を受けた大阪の高校生の自殺と、柔道女子の五輪代表選手らによるパワーハラスメントの告発をきっかけに、スポーツ界の旧弊な体質が問題になっている。しかし、はたして旧弊なのはスポーツ界だけなのか。
 みなさまは有形無形の暴力を禁じた法律の条文と、それに基づく各省の指針をお読みになったことがあるだろうか。
 夫婦間・恋人間の暴力を禁じたDV(ドメスティックバイオレンス)防止法(2001年施行)や、親などの保護者から18歳以下の子どもへの暴力を禁じた児童虐待防止法(00年施行)は殴る・蹴るなどの身体的暴力のほかに精神的な暴力も禁じている。
 大声で怒鳴る、何を言っても無視して口をきかない、人の前でバカにしたり命令口調でものを言ったりする、殴るそぶりや物を投げつけるふりをして脅す……。いずれもDVに入る。児童虐待には、言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に暴力をふるうなどが含まれる。
 法制化はされていないが、厚生労働省が昨年1月に発表したパワーハラスメントの定義にも、身体的攻撃のほかに暴言や侮蔑を含む精神的攻撃、人間関係からの切り離しなどが盛り込まれた。
 これらのリストを見て衝撃を受ける人は少なくない。怒鳴るのもダメなわけ? それじゃ夫婦ゲンカもできないし、子どものしつけもできやしないじゃないか、と。

 そうなのだ。そこがまさに問題で、私たちは暴力にきわめて甘い社会で暮らしてきた。DVや児童虐待やパワハラが長く見過ごされてきたのは、痴話ゲンカ、しつけ、指導などの名目で家庭や職場の暴力の実態がごまかされてきたからだ。
 学校の体罰やスポーツ界の暴力も根は同じ。日本社会に巣くう病巣の一部ととらえぬ限り、解決は難しいだろう。
 ところが、この事実に気づいていない人が多すぎる。「教育再生」を重要課題に掲げる安倍晋三内閣はどうだろう。
 文部科学省が体罰の一部を事実上容認する通知を出したのは2007年2月。第一次安倍内閣のときだった。
 「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」と題されたこの通知は、体罰を禁じた学校教育法11条の解釈を見直す形で「放課後等に教室に残留させる」「教室内に起立させる」「清掃活動を課す」などは体罰に当たらないとした。
 教育関係者をはじめ多方面から疑問の声があがる通知だったが、当時の伊吹文明文科大臣は「毅然とした態度」をとった教師や学校が「児童の人権」という観点で非難されたら困るだろう。そのやりにくさを払拭するのが目的だ(大意)と述べた。条件付きで、政府が一部の体罰にお墨付きを与えた格好である。
 それから6年。安倍首相は「いじめ・体罰対策に全力で取り組む」と約束した。が、「学校現場の過度な萎縮を招くことのないよう、体罰に関する考え方をより具体的に示す」という発想の仕方がすでに誤っている。6年前と意識は同じ。体罰はなべて暴力で「よい体罰と悪い体罰」があるわけじゃないからだ。
 谷川弥一文科副大臣は12月「いじめ問題では学校に怖い人、武道家がいる方がいい。一番いいのはボクシング。空手・プロレスも。いなかったら警察のOB」と発言した。このような認識が体罰をはびこらせる。脅しの奨励である上、格闘技への誤解も甚だしい。
 体罰(という名の暴力)を禁じているのは学校教育法だけではない。子どもの権利条約19条はあらゆる虐待からの子どもの保護を訴え、日本国憲法11条は基本的人権の尊重を、13条は個人の尊厳をうたっている。暴力は人権意識と密接に関連するのである。
 ところが自民党の改憲草案では「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」とする18条の条文が削除された。6年前の文科省の通知は、児童生徒に「必要な規律を重んずる」ことを課した改正後の教育基本法に沿った措置だった。
 人権を制限し、究極の暴力の否定である戦争放棄に異議を唱える人たちに、暴力を一掃することができるだろうか。矛盾としかいいようがない。

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 森君の報告にある嫌韓デモは、ほんとに酷いですね。
日本には人種差別撤廃条約に定められた「人種差別禁止法」さえない。不思議に国です。自民党の動きをみると、これを制定しようという動きもないってことですね。

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