現代書館

WEBマガジン 14/04/11


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第二十四回

件名:風景写真は嘘をつく
投稿者:斎藤美奈子 2014/4/4

森達也さま

 ドキュメンタリーとやらせについての貴君のコメント、何カ所かで読みました。
 この件に関しては、活字の人は(私も含めて)たいへんナイーヴ(バカともいう)なので、あなたの『ドキュメンタリーは嘘をつく』じゃないけれど、おおいに啓蒙していただきたいと思います。

 さて、少し政治を離れたいということでしたので、今回は非政治的な話を。
 広島へ赴いた主な理由は、広島城見学です(笑)。あと、もちろん岩国城も、です。 城めぐりは相変わらず続いておりまして、オスプレイの配置で物議をかもした岩国空港(自衛隊とシェア)から、岩国→宮島→広島と、強行軍で廻ってきました。
 森君はそういえば広島生まれなんだよね。広島は何度も仕事では行っていたのですが、いつも日帰りのトンボ帰りで、原爆ドームをチラ見した程度。城も、平和記念資料館も、ちゃんと行ったことがなかったので、この年になって遅ればせながらの広島旅行でした。

 観光地には貴君はあまり興味がないと思いますが、最近、発見したのは「観光地は観光客がおもしろい」ということです。

 たとえば左上に貼った写真Aは、「天孫降臨の地」として有名な宮崎県の高千穂渓谷です(雨だったので写真の出来はよくありません。腕もよくないけど)。旅行雑誌やポスターで、さんざん見かける風光明媚な風景で、ちょっと憧れます。

写真A(高千穂峡)


ところが、少しばかりカメラを引くと、写真Bのようなことになっている。

写真B(高千穂の実際)

 横には遊歩道が整備されていて、観光バスで乗り付けた大量の観光客がひっきりなしに行き来しています。深山幽谷かと思って訪れると、現場はぜんぜんちがうんだ、ということです。
 
最近「天空の城」として有名になった兵庫県の竹田城も、私が訪れた3年ほど前は、まだ城マニア以外にはマイナーで、(しかも早朝だったので)この程度の人出でした(写真C)。

写真C(竹田城)

 しかし、竹田城がブームになってしまったいまは、天守台の上に、雲海の写真を撮ろうと三脚を立てた素人カメラマンがずらりと並び、場所の取り合いで押すな押すななんだそう。たとえば……こんな感じ(右上の一段高くなっている石垣が天守台です)。↓
http://livedoor.blogimg.jp/katsuemon1973/imgs/e/1/e1eaf29a.jpg

みんなが狙っているのはこういう写真↓
http://nishikiorikai.net/wp//HLIC/306bcf86445b82a2c425150629875144.jpg

 カメラ付きケータイやスマホの普及で大きく変わったのは、多くの人が「にわかカメラマン」になってしまったことでしょう。人々がケータイやスマホで写真を撮っている姿ほど、おもしろいものはない。そして「にわかカメラマン(斎藤を含む)」の特徴は、みんなで撮った記念撮影(斎藤はこれには興味がない)か、さもなければ「人のいないキレイな写真を撮りたがる」ってことです。
 結果、ネット上には「人のいない風景写真」があふれます。いずれも風光明媚な場所ですから、それなりに美しく撮れています。
 しかし、そうした風景写真はちっとも実態を写して(映して)いない。
 竹田城は「日本のマチュピチュ」とか言われていますが、本家マチュピチュも、たぶん同じだと思う。

 なぜ、そのことにもっと早く気づかなかったろうかと思います。
 私の一眼レフで下手っぴいな写真を撮り始めたのは、せいぜい2〜3年前からなので、偉そうなことは全くいえませかんが、自分で撮った「ステキな (と自分では思っている)風景写真」なんか、後で見ても、まったくおもしろくないもんね。世の中にはもっと上手な写真が、死ぬほど出回っているし。
 プロのドキュメンタリー作家である貴君のおっしゃる「やらせ」とは、まるで次元の異なる幼稚な話で恐縮ですが、「風景写真は嘘をつく」というテーマで、もっと写真を撮っておけばよかったと後悔することしきりです。
 その前に写真の腕そのものを磨かなければなりませんが。

 ということで、今回は馬鹿話でした。
 明日から、群馬の北のほうに出かけます。目的は名胡桃城という北条の山城(笑)です。
 中世の山城の場合、土塁や空堀を写真に撮っても、誰にも理解されません。
 「なあに、これは。ただの山?」。
 「石垣しか残っていない」とか、みんな言うけど、石垣があったら、それだけで大興奮です。


斎藤美奈子

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