現代書館

WEBマガジン 14/09/02


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第二十九回

件名 :フクシマの9月1日に
投稿者:森 達也 2014/09/01

斎藤美奈子 様

7月に福島に行ってきました。そもそもは吉岡忍さんも入れて何人かの編集者と飲んでいるとき、吉岡さんが福島の現状を見に行こうと言いだしたから。
考えたら僕も、福一の事故直後には福島に行っているけれど、それ以降は岩手や宮城などの被災地には何度も足を運びながら、原発周辺には行っていない。
何度も行っている吉岡さんが案内役になるというので、当日に集合場所に行ったら、総勢13人(女性は4名)の大所帯(さらに現地で二人の合流があった)になっていた。みな吉岡さんの友人らしい。つまりおそらくはほぼ団塊世代。
二台のワゴン車で常磐道を下って、飯坂インターで高速を降りる。何人かが持参した線量計をとりだす。目盛は2.5マイクロシーベルト。ならば外の空間線量は3.0を超えると思う。つまりチェルノブイリの避難地域とほぼ同じ。

街は「車の中でこれかよ。ならば外はチェルノブイリの避難地域と同じくらいの数字の可能性があるな」と、吉岡さんが手にした線量計を見つめながらうなる。僕は窓の外に視線を送る。普通の街並みだ。多くの人が歩いている。以前と変わらない日常を送っている。でも空間線量は高い。ただし目に見えない。
窓の外の景色を眺めていたら、福島市の公式サイトのコピーが回ってきた。メンバーの誰かが持参してきたらしい。タイトルは「放射能に負けない体を作りましょう」。以下にその一部をコピペする。

4)放射線に負けない体をつくるための食事
・バランスの良い食事で腹八分目
・節度ある間食の摂取
・抗酸化ビタミン・ファイトケミカルを毎日補充
・よく噛む
・朝食を食べる

 「生活習慣のポイント」は、早寝早起き・良質な睡眠、バランスのとれた食生活、適度な運動、ストレスを溜めないなどと記述してから、

・窓を開けて室内の換気
・洗濯物は日光にあてる
・天気の良い日は布団を干す
・外から帰ったら手洗い・うがいをする

などと書かれている。
これ。
http://matome.naver.jp/odai/2140569784683595001/2140570477686923603

さすがに現在では福島市はこのページを削除したようだけど、でもやっぱりこの国の人の馴致力の強さには驚く。半端じゃない。この夏の関東や関西はこれほどに猛暑だったのに、誰もが当たり前のようにエアコンを使っている。JRはとにかく冷え過ぎ。何も変わっていない。
そういえばこの原稿を書いている今日は9月1日。関東大震災から70年。防災の日。確かに災害の記憶と検証と教訓を語り継ぐことも大切だけど、でも今の世相を考えれば、震災後に起きた朝鮮人虐殺について、僕たちはもっと思いだし、もっと語り、もっと考えるべきだと思う。

一泊二日で福島の現在をいろいろ見てきたけれど、それはもう他誌に書いてしまったから省略。夜にみんなで食事をしてそれぞれの自己紹介を聞いて驚いた。3人の編集者と森を除いた残りの人たちは、みなべ平連のOBで、しかも吉岡さんを入れてそのうち数人は、かつて米兵脱走活動に加担していた人たちだ。
「そのとき米兵を乗せた車を運転していました」とか「一緒に潜伏しました」などとそのときの話を聞きながら、やっぱりすごい時代だったんだなとあらためて実感した。米兵脱走に加担する。いまなら絶対に非国民とか売国奴などと罵倒されているのだろうな。


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