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WEBマガジン 14/11/06


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三十一回

件名 :朝日問題のまとめ?
投稿者:斎藤美奈子  2014/10/29

森 達也さま

ずいぶん時間があいてしまいました。毎度のことながら、ごめんなさい!

前回、貴君が「緊急投稿」してくださった朝日新聞の誤報問題、その後も二転三転し、
 (1)吉田証言問題(慰安婦関連)
 (2)池上コラム不掲載問題
 (3)吉田調書問題(福島第一原発関連)
の3点セットになってしまいました。
 森君も精力的にあちこちの集会で発言し、記事も書いておられる由。
 私の意見も貴君と同じで、ほとんど異論はありません。つけ加えれば、吉田調書で朝日が早々に謝罪会見をしたのは、現場に対する裏切りだと思う。
 
 下に貼ったのは、これ関連で書いた斎藤の記事です。
 ほかのメディアにも書いたけど、Y社系列の雑誌からは微妙な「圧力」がかかりました。もはや毎度のことなので慣れてますけど、そういう会社がA社に居丈高な態度をとっている(かつ、この機に読者獲得に動いている)あたりが、苦笑させてくれます。

 池上さんは、ああいうやり方で朝日を「告発」した形になったけど、ちょっと違和感ありますね。原稿の表現をめぐって担当者とやりとりするのは、新聞雑誌で仕事をしている者には当たり前のプロセスで、なぜそれが外にもれたのかが、わからない。
 それでいて、後から「週刊文春」誌上で「文春」などの別のメディアを批判するんだからさ。立ち回りがうまいなあ。
 10月も終わり近くになり、もはや「時機を逸した?」話題になってしまいましたが、備忘録としてお読みください。
 
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つぶし合いの代償

 慰安婦をめぐる吉田文書。福島第一原発事故をめぐる吉田調書。加えて池上彰氏のコラム掲載見送り問題。朝日新聞はいまや満身創痍である。
 おかげで他紙や週刊誌は大ハシャギ。「謝罪しろ」の後には「反省が足りない」。ここで朝日を擁護しようものなら「オメエはアイツの肩をもつのか」とかばった人まで攻撃される。イジメの構図といっしょである。
 それがどんな結果を招くかといえば、報道機関の大本営化である。誤報や虚報が怖いので、メディアは政府発表などの無難な情報しか流さなくなる。左遷や解任が怖いので記事の書き方にもおのずとブレーキがかかる。結果、権力を監視する機能はますます後退する。
 慰安婦報道に関していえば、三十二年前の吉田清治証言はたしかに虚報だったが、それによって軍の関与や強制が否定されたわけではない。吉田調書についても「命令違反で撤退」の見出しは勇み足だったが、それは評価の問題で、捏造、誤報とまではいえまい。
 もとより新聞に誤報はつきもので、だからこそ読者には情報を批判的に読む力(メディアリテラシー)が求められてい
る。今頃「裏切られた」だの「謝罪しろ」だの騒いでいる方がおめでた
い。権力にとって好都合なのは言論機関同士が互いにつぶし合って共倒れになることだ。その代償は朝日の誤報よりずっと大きい。(「東京新聞」9月17日「本音のコラム」)
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朝日騒動があぶり出したメディアが死滅する日

 朝日新聞がこれまでにない窮地に追い込まれている。8月5日、6日、過去の慰安婦報道にかんする検証記事で、1982年に報じた、「済州島で慰安婦狩をした」などの吉田清治氏の証言(吉田証言)を虚偽と認め、16本の記事を取り消した朝日新聞。
 ここに朝日に対して謝罪を促した池上彰氏のコラムを掲載しなかった問題が重なり、それで終わりと思ったら、9月11日、朝日は突然、謝罪会見を開いた。5月20日、政府事故調の調書の一部を入手した朝日は「所長命令に違反 原発撤退」などの見出しで、福島第一原発・吉田昌郎元所長の調書(吉田調書)にかんする記事を掲載したが、これを取り消すという。会見に臨んだ木村伊量社長は読者と東京電力に謝罪し、同時に慰安婦報道の誤報について謝罪しなかったことも謝罪した。

 まるで他紙やネットの朝日叩きに屈したかのような満身創痍の朝日新聞。もちろん朝日新聞自体もほめられたものではない。慰安婦報道について「謝り方が悪い」といわれればその通りだろうし、吉田調書の読み方も勇み足だった。が、そうした落ち度を差し引いても、他のメディアの朝日バッシング、ネガティブキャンペーンは常軌を逸していた。
 「国益を損ねた朝日、反省なし」などの見出しでお祭り騒ぎ状態になった産経新聞。この機に乗じて「朝日『慰安婦』報道は何が問題なのか」なる冊子を販売店経由で配布した読売新聞。「朝日新聞『売国のDNA』ほか強烈な見出しで読者を煽った『週刊文春』。「おごる『朝日』は久しからず」などとうたい、櫻井よしこ、百田尚樹、石原慎太郎ら右派論客を総動員して「朝日を潰せ」キャンペーンを張った『週刊新潮』。みなさま、朝日の失態がよほど嬉しかったらしい。

 ずいぶん前になるけれど、この欄で「中悪叩きの法則」について書いたことがある。巨悪はこわくてさわれない。小悪は叩いてもおもしろくない。結果的に「中悪」にバッシングが集中する。2007年、不二家、ミートホープ、赤福などの消費期限改ざん事件が続いた際に書いたことだった。ちょうど東京電力の原発の設備にかんするデータ改ざんが発覚した時期で、このようにして巨悪はまんまと逃げ伸びるのだと。
 今度の場合も、同様の構図があてはまる。慰安婦問題において巨悪、すなわち最大の問題が、軍の関与や強制性を認めず、国際的な孤立への道を歩みつつある安倍晋三政権にあるのは明らかだろう。原発事故についての巨悪が自民党政権と東電であることも自明である。が、巨悪の側につくメディアは、ここぞとばかり中悪叩きに血道を上げる。

 対象が別の新聞だったら、こうはならなかっただろう。朝日の誤報を糾弾する読売や産経とて、過去に何度も誤報を打っている。ハーバード大学研究員・森口尚史氏の証言を真に受けた「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術に成功」(読売新聞12年12月)とか、「中国の江沢民前国家主席が死去」(産経新聞11年7月)とか。しかし、ここまでの騒ぎに発展しなかったのは、読売や産経の信頼度が最初から「その程度」だったからだろう。
 一方、朝日新聞は他紙に比べてクォリティペーパーとしての権威を保っており、しかも(不十分とはいえ)慰安婦の強制性を認め、原発の再稼働に反対し、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認問題で政府を批判するなど「反安倍政権」の姿勢を打ち出していた。政府の広報紙と化した新聞や雑誌にとっては、おあつらえ向きの標的である。
 しかし、報道機関が互いに潰し合いを演じてくれるほど、権力にとって好都合なことはない。

 9月も下旬になって、さすがにこれはマズいと気づいたか、『サンデー毎日』10月5日号は「『朝日火ダルマ』背後で嗤う正体」として鼎談を組み、『週刊現代』10月11日号は「日本人とは大違いだった 世界が見た『安倍政権』と『朝日新聞問題』」と題して、それぞれ異常な朝日叩きに対する異論を載せた。
 それでもこの騒動で日本が負った傷は大きい。9月13日はついに、慰安婦報道に携わった元朝日新聞記者が教鞭をとる帝塚山学院大に脅迫文が届いた。別の元記者が非常勤講師を務める北星学園大にも、同様の脅迫があったという。言論統制なんかやんなくても、メディアを萎縮させるのは簡単なのだ。ペンで殺して、次は銃。それがどんな結果を招くかは、いわなくてもわかるよね。(『DAYS JAPAN』11月号)
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