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WEBマガジン 15/04/15


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三十七回

件名  :辺野古と新発見文学
投稿者:斎藤美奈子

森達也さま

森君はヨーロッパはいかがでしたか。
3月は私は屋内で仕事ばっかりしてました。仕事ばっかりとはどういうことかと申しますと、原稿の締め切りが計28本あった。われながらウンザリです。

そのうちの一本をアップしておきます。
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 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐって、国の暴挙がとまらない。
 思いおこせば、この件は官邸の「面会拒絶」からはじまっていた。翁長雄志沖縄県知事は12月の知事就任後、5度も6度も上京して面会を求めているが、安倍晋三首相も菅義偉官房長官も頑として会おうとせず、現在も面会は実現していない。
 そうこうしているうちに、1月14日夜から15日未明にかけて、沖縄防衛局は昨年9月から中断していた辺野古沿岸部での海底ボーリング調査を再開するとし、調査のための重機を移設予定地に搬入した。
 26日には翁長知事が工事を一時中断するよう国に求めるも、辺野古沖には大型重機や作業船が入り、米軍キャンプ・シュワブのゲート前では住民や支援者と機動隊の間で連日もみあいが続く。けが人が続出する中、2月22日には沖縄平和運動センター議長の山城博治さんら2名が刑事特別法違反容疑で拘束されるという異常事態にまでいたった。

 この件で思い出すのは、成田国際空港の建設をめぐる、いわゆる三里塚闘争だ。三里塚・芝山連合空港反対同盟の農民や空港建設に反対する支援者らが激しく抵抗する中、1971年2月22日(くしくも山城さんらが逮捕されたのと同じ日だ)、用地取得をめざす当時の佐藤栄作内閣は第一次行政代執行に踏みきり、3000人規模の反対派と機動隊がぶつかる事態にいたった。
 こんどの辺野古も四十数年前の成田も、地元の意向を無視して国が暴力的な手段に出たのは変わらない。しかし、あのときとこんどとでは、いくつかちがった点がある。

 ひとつは、機動隊を入れた「代執行」にいたるまでの経緯である。
 成田の場合は、当時の友納武人千葉県知事も、藤倉武雄成田市長も空港建設に賛成だった(というかむしろ建設を要請した側だった)し、成田闘争自体が反体制運動のシンボルとして扱われた面がある。
 しかるにこんどの沖縄では、昨年1月の選挙で再選された稲嶺進名護市長も、11月の知事選で当選した翁長沖縄県知事も、移設に反対の立場をとる。つまり選挙という正式な手続きによって、沖縄の民意は示されているのである。曲がりなりにも民主主義国家なら、計画を中断し、国と県が話し合いのテーブルにつくのが筋ってものだろう。

 もうひとつは報道の量の問題だ。
 成田の行政代執行の際、私は中学生だったけど、NHKのニュースで「権力の暴力」を自分の目で見た衝撃は忘れない。当時のメディアも市民の側についていたとは、たぶんいえない。しかし反対派を「過激派」呼ばわりしながらも、とびかう怒号や立ち木にしがみついて抵抗する女性や子どもを機動隊が引きはがしていくさまを、ニュースの音声や映像はしっかりとらえていた。
 ひるがえって、こんどの辺野古の件を、東京発のメディアがきちんと伝えているとはいいがたい。特にテレビは完全にシカトである。
 新聞はどうだろう。「辺野古の抗議 強硬政府が生んだ混乱」(2月24日)、「辺野古移設 政府こそ一方的」(3月5日)と題した社説を掲載するなど、朝日新聞は全国紙の中ではまだ沖縄を注視しているほうだと思うけど、1月〜3月上旬の記事を調べてみると、辺野古の扱いはきわめて小さい。また同じ記事でも、関東・東北地方で販売される東京本社発行の「東京版」と、山口・九州・沖縄地方で販売される西部本社(福岡市)発行の「西部版」では扱いに大きな差があるのだ。

 辺野古に重機が入った1月15日の件は、西部版が一応15日の夕刊1面と16日朝刊1面に写真入りで伝えたのに対し、東京版は夕刊社会面に小さく載っただけ。山城さんの不当な拘束は、西部版が2月23の朝刊社会面トップで伝えたのに対し、東京版は社会面のベタ記事扱い。2月25日、沖縄県が海底調査に乗り出し、コンクリートブロックの影響でサンゴの破壊が確認された件も、西部版は1面に写真を載せたが、東京版は社会面の囲み扱いだった。さらに東京版では、反対派の抵抗のもよう自体を報道していない。
 一事が万事、この調子。「沖縄タイムス」や「琉球新報」には及ぶべくもないとしても、東京発の全国紙の読者に、沖縄での国の暴挙はほとんど意識されていないだろう。沖縄のことを伝えよと、メディア関係者には強く訴えたい。特にテレビ、四十数年前の気概を取り戻してよ!
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うんざりするニュースばかりなので、最後にオマケの楽しいニュースを

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 一般にはほとんど報道されていないが、最近、文豪の未発表作品の発見が相次いでいる。それも一編や二編ではなく、かなりの数で。なぜ公表されないかというと「こんなものを世に出したら文学の権威が失墜する」と反対している一部の業界人がいるからだ。
 タイトルを見ればそれも納得。夏目漱石『嬢ちゃん』。どう考えてもウソくさい。ところが意外や意外、『嬢ちゃん』は大阪下町生まれの娘が女学校教師として青森に着任し、互いの言葉の壁にはばまれながらも女生徒たちとの信頼を築く痛快な物語。あの名作をしのぐほどの出来なのだ。
 他の未発表作品もノリノリで、谷崎潤一郎『豪雪』はモテない四兄弟が美女の結婚詐欺師に翻弄される婚活小説、「滑稽な長い橋を渡ると南国であつた」ではじまる川端康成『南国』は指宿温泉(鹿児島県)を舞台にした薄幸の美少年の失恋物語。小林多喜二『海老鉱泉』は北海道の炭鉱労働者たちが坑内で温泉を掘りあて、地下でひそかにエビの養殖に挑む団結と抵抗のドラマである。
 調べてみると、これら新発見文学の多くは出版点数を増やしたい版元の依頼で、昔、秘密裏に書かれたものらしい。そのため「B面の文学(B文)」と呼ばれるが、贋作疑惑も依然強く、出版各社も刊行に二の足を踏んでいる。「B文全集」が出たら絶対話題になるのに。

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★これはエイプリルフールの紙面のために書いたコラムでした。あしからず。
 


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