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WEBマガジン 15/06/16


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第三十九回

件名 :「安保反対」再び
投稿者:斎藤美奈子

森達也さま

 5月27日から、国会(衆院平和安全法制特別委員会)でいよいよ安保関連法案の審議がはじまりました。今国会では、労働者派遣法やマイナンバー法も可決されそうで、それも憂鬱ですが、11の関連法案を2法案にまとめて審議ってのもひどいよね。

 貴君が前々からおっしゃっている「1995年に時代が変わった」説ですが、これはどうもほんとっぽいですね(いままで疑っていたわけではありませんが)。
 いろんな指標があるとは思いますが、私は歴史認識と歴史教科書問題をちょっとだけ調べてて、そしてわかったのは、「自虐史観」という言葉がこのころに生まれたってことでした。年表風にまとめますと……。

1996 自由主義史観研究会『教科書が教えない歴史』 ベストセラーに。
    新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)発足(自虐史観元年)。
1998  小林よしのり「新ゴーマニズム宣言スペシャル戦争論」ベストセラーに。
1999  新しい教科書をつくる会編『国民の歴史』ベストセラーに。
    ネット掲示板「2ちゃんねる」開設。国旗・国歌法成立。
   改定労働者派遣法。石原慎太郎、都知事で初当選。

 今日の歴史修正主義の台頭は、ここを起点に20年かけて、じっくりと醸成されてきたのだなと思います(20年かけて、ついにその一派が政権を担うところにまで来たといってもいいでしょう)。だから簡単には変わらない。戦術を練って、すこしずつ是正していくしかないだろうと覚悟しています。

 「正念場という言葉をこれまで安易に使ってきてしまった自分を、今激しく悔いています。これから国会が始まる。安倍首相がアメリカに約束した期限は夏まで」
 という貴君の感慨には、まったく同感です。
 でもさ、今回は「成立を阻止できるのではないか」という希望も少しもってるんだよね。下は、ほとんど憂さ晴らしの気分で某誌のために書いた原稿です。
 正念場には、笑いが必要ですから。

 斎藤美奈子
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 今国会の会期中(6月24日まで)の成立を目指すとしてきた安全保障関連法案の採決を政府与党は断念、会期を延長し、衆参両院での採決は7月以降に先送りとなった。
 最初から波乱含みの安保法制国会だったが、政府与党が明らかに泡を食ったのは、6月4日に開かれた衆議院憲法審査会からだろう。長谷部恭男氏(自民・公明・次世代の党推薦)、小林節氏(民主党推薦)、笹田栄司氏(維新の党推薦)という3人の憲法学者全員が「審議中の安保法制は違憲である」と断じた一件である。
 「違憲ショック」ともいうべきこの事態から後の政府与党のあわてふためきぶりは見モノだった。人間、パニックにおちいると何をいいだすかわからない。以下、プッツン発言のいくつかを拾ってみよう。

 まず「法的安定性や論理的整合性は確保されている。まったく違憲との指摘はあたらない」「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と語った菅義偉官房長官(4日の記者会見で)。おりしも6月3日に憲法学者171人(後に200人近くまで増加)が安保関連法案に反対し、廃案を求める声明を出したばかり。「違憲でないという著名な憲法学者」の名前を教えてくれよ、というツッコミに、菅氏があげたのは3人だった。
 いずれも極端に右寄りな思想で知られるトンデモ学者。それでは説得力がないと思ったからこそ自民党は長谷部氏を指名したのだろうが、170名より3名のほうが「たくさん」と感じる菅氏は数も数えられなくなったらしい。

 「多少問題が及ぶかなと思っていたが、後半の議論がほとんど安保法制になり、予想を超えたと思っている」と語ったのは、憲法審査会の筆頭幹事として人選の責を負った自民党の船田元議員(4日の審査会閉会後)。「予想を超えた」と認識しているのは船田氏だけで、この時期に審査会を開いて安保法制にふれないということはあり得ないし、長谷部氏が集団的自衛権をめぐる解釈改憲に反対していたのは、日頃から新聞を読んでいる人には周知の事実だった。あまりに低い船田議員のリサーチ能力。「ポツダム宣言をつまびらかには読んでいない」と述べた首相と同じで、新聞もつまびらかには読んでいなかったのだろう。
 「こういう人を呼んでくるのが間違いだ」「党の方針ははじめから決まっている。あくまで参考意見で大ごとに取り上げる必要はない」とブチカマしたのは自民党の二階俊博総務会長(6日収録のTBS番組で)。それじゃあなぜ審査会に識者を呼んだのかという話である。ゲームに負けた途端にゲーム自体が無効だといいだす。まるでヤクザの論法だ。
 「憲法学者はどうしても憲法9条2項の字面に拘泥する」という自民党・高村正彦副総裁の発言(5日の役員連絡会で)もお笑いぐさだ。憲法学者が憲法の字面に拘泥するのは当たり前でしょーが。
 そして中谷防衛大臣のこの発言。「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか、という議論を踏まえて閣議決定を行った」(5日の安保特別委で)。憲法「を」法律「に」適用させる。おいおいおい、それではまるで反対だ。ついつい出ちゃった自民党の本音?
 こんなキレた人たちが牛耳っている行政府と立法府。安保法案、絶対廃案にしないとヤバイよね。

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