現代書館

WEBマガジン 17/07/31


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第六十九回

件名:国土の分割に寄せて
投稿者:斎藤美奈子

世界を飛び回っている森達也さま

 台湾のあとは、北欧とバルト三国ですか。すばらしい。ご活躍、いたみいります。

 それはそれとして、本日(7月27日)午後、民進党の蓮舫代表が突然、辞任会見を開きました。しかも夜のニュースでは稲田朋美防衛大臣が「辞任の意向」とのことです。
 蓮舫さんは、都議選敗北の責任をとって、だそう。
 稲田大臣の辞任理由は、直接的にはPKOの日報隠蔽問題の責任をとってという形ですけど 6月27日には都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言して大騒ぎ。森友学園問題が発覚した際にも、同学園の訴訟に関わったことはないという発言が虚偽とばれて謝罪したり、あとはもうなんだかいろいろありすぎて忘れそうです。

〈安倍政権の支持率は、さすがに今は下がっているけれど、間違いなくまた持ち直す。ならばメディアと社会と政治の三つ巴体制は今後も変わらない〉

 と前回(6月)、貴君は書いていたけど(私も先月はそう思っていたけど)、ちょと情勢は変わるかも知れませんね。メディアの風向きは政権批判の方向に変わりつつあり、すると安倍政権の支持率もめきめき下がって、日経新聞の調査では39%、時事通信社の調査ではついに30%を切って、29.9が%。もっとも、一気呵成に攻めるべきこの好機(?)に、民進党は代表選をやるってんだから、何をかいわんやですが。

 目の前の政治のゴタゴタにはもううんざりなので、ちょっとこの話↓

 〈だから最後の手段を提案します。国土の分割。4つか5つくらいに分ける。沖縄や北海道はもちろん独立する。日本語を紐帯とする緩やかな共和国体勢。自民党を支持してアメリカとの同盟関係を重視して中国や朝鮮半島を敵視しながら憲法を変えたい人は本州にまとまる。リベラルな志向を持つ人は四国にしよう〉
 
 言ったから、あなたは、そういう本を書くべきですね(笑)。完成した暁には、おいやじゃなければ(おいやでしょうか)、私が推薦文を書きますよ。
 矢作俊彦さんの『あ・じゃぱん』っていう小説、知ってます? 私はこれ、大好きなんだけど(もう20年前の小説ですが)、敗戦後、日本が東西に分断されるっていう話です。北海道にソ連が侵攻して東日本は「日本人民民主主義共和国」になり、西日本はアメリカが占領して「大日本国」になる。
 最近だと、現代書館イチオシの北野慶さん『亡国記』でも、国家が分断される話が出て来ますよね。二度目の原発事故のあと、たしか北海道がロシアの傘下に入り、九州は中国に乗っ取られ、本州はアメリカが「世界の核のゴミ捨て場」に活用しようと乗り込んでくる。沖縄は独立しますが、四国はどうなるのでしたっけ……。
 というふうに見てくると、日本は自力で国土の分割さえもできない国、なのかもしれない。そして分断にかかわるのは、森君いうところの「成熟していない国」ばかりである。
 
 リベラルな人は四国、っていうのはどういう判断? 国土がち小さいから?
 だったら私は九州のほうがいいな。四国だと、だって瀬戸内海を挟んで本州と対峙することになっちゃうじゃん。本州と四国は、明石→淡路島→鳴門ルート、瀬戸大橋、しまなみ海道と、3つも橋がかかっているし。「日本語を紐帯とする緩やかな共和国体勢」とはいうものの、だってあっちは好戦的なんだよ。すぐに侵攻されるって。
 九州ならば、関門橋だけ封鎖すれば、なんとか独立は保てそうじゃない?(隣は安倍氏のお膝元の山口なんでヤバイ気はしますけど) 四国は緩衝地帯にしたらいいんじゃないでしょうか。

 話は変わりますが、千田嘉博さんという城郭研究で知られる中世&近世の考古学者が、かつてたまたま見たNHKの番組で、とても重要なことを言っていた。
 戦国時代の人たちは、ほんとーに戦争で疲れ果てていて、もう戦争はまっぴらだと心底思っていた。特に庶民はそうだよね。だから徳川政権は260年も、戦争をしなかったのだ、というのです。江戸幕府はそりゃあ問題だって多かったですよ。しかし、戦争だけは回避した。それに比べたら、戦後なんて、まだたった70年だと。
 これにはちょっと感銘を受けました。戦争体験者がいなくなりつつある今日、恒久平和の誓いも尽きたか、みたいに思ってしまうけど、まだ100年もたっていないのよね。
 貴君の「小さな国」がいいという説に従えば、江戸の幕藩体制にもいい点はあったのかもしれないなと思ったりしました。現代書館の「シリーズ藩物語」にも、だからきっと大きな意味があるんだよ。と、最後は宣伝をしてみました。

斎藤美奈子


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