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WEBマガジン 17/10/04


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第七十一回

件名:総選挙前のボヤキ
投稿者:斎藤美奈子

森達也さま

 先月のいまごろには予想もしなかった事態が進行しています。解散総選挙だって! なにが「国難突破解散」じゃ、モリカケ隠しじゃんよ。
 などといっているうちに、小池百合子東京都知事が新党を立ち上げ、民進党の前原誠司代表は「名を捨てて実を取る」とかいって、小池新党に合流。ええーっ、こんな形で21年の歴史を持つ民進党(民主党)を終わらせちゃうのかよ……と思っていたら、小池新党の狙いは、どうやら安倍政権打倒ではないらしいことが発覚。民進党の議員は、小池新党(希望の党)に移る派と、枝野幸男氏が急遽立ち上げたリベラル新党(立憲民主党)に参加する派に二分して、今日(10月4日)に至る、です。
 めまぐるしく変わるこの「政変」のおかげで、私しゃ、ここにアップするための原稿を2度も書き直すハメになった。この間の時間を返して欲しいよね。
 
 でもまあ、これで選挙前の構図はほぼ固まったことになるでしょう。以下、(森君は興味がないと思うけど)、今日の時点で感じたことだけを書いておきます。

1)小池新党はどこまで票を伸ばせるか
 希望の党は、当初、左右に広くウイングをとって一気呵成に政権交代を目指すのかと思ってた。だとしたら、好き嫌いはともかく、小池百合子もなかなかやるじゃんという感じがしたし、新党に丸ごと移って政界を変えるという前原の判断もわからなくはなかった。おもしろくなってきた、と感じた人もこの時点では多かったと思う。自民党も「しまった!」と思って、青くなったんじゃないかな。
 ところが、小池百合子は、思ったよりもケツの穴が小さくて「全員を受け入れることは、さらさらない」、「(リベラル派が)排除されないということではなく、排除いたします」といっちゃった。浅はかだよね。「排除しません」といっといて、当選後にリベラル排除に動けばいいのにさ。その上、本人が衆院選に立つのかどうかも、まだ不明。
 私は、小池新党は、そんなに票を伸ばせないんじゃないかと思う。こういう人って、左右を問わず、日本人は(といってしまうが)嫌いでしょ。
 192人の候補者のうち110人は旧民進党の出身者らしい。党の方針だからなのか、勝ち馬に乗れると考えたのか、何を思って彼らが小池新党に移ったのかわかんないけど、イメージはすでにガタガタだよね。街頭演説に立っても「あ、裏切り者だ」と指さされるのがオチ。選挙戦も言い訳しながら戦うことになるわけじゃない? 保守的(右翼的)な政策が好きならば、自民党に投票すればいいんだし、小池新党が目の覚めるような経済政策を打ち出しているわけでもないし、まして政権交代が望めるわけでもない以上、都知事選、都議選のようなわけにいかないと思うよ。
 小池新党は野党第一党にはなれるかもしれないが、ああいう党運営のやり方では、内部の反発は必至。しばらくゴタゴタしたあと空中分解。90年代後半のような、小党乱立時代がやってくるような気がします。

2)枝野新党はどこまで行けるか
 民進党が解体し、希望の党に合流という流れを知ってゾッとした人たちは、立憲民主党の立ち上げにホッとしたはず。これで投票先ができた、よかったよかったというところでしょうか。共産、社民とも共闘を組むそうです。
 とはいえ、「リベラル新党」ともいうべき新しい民主党がいったいどこまで票を取れるかが問題ですよね。当面の目標は、改憲を阻止するため、社民・共産をあわせて議席の3分の1を取ることですが、だとしたら立憲民主からの立候補予定者が50人というのは、ちょっと少なくない? 時間的な制約があるのはわかるけど、もっと強気で行けよ、と思います。3分の1に相当する155人(だっけ)近くは候補者を立てないと、左派の有権者はやる気が出ない。比例区で人数の増加を目指すにしても、リベラル左派の比例票は、共産と立憲に割れる可能性もあるわけで、派手さが足りないよ。
 ただし、いままでと多少情勢が異なるのは、これまで何度も問題になってきた「野党の票の食い合い」が、今度は「保守票の食い合い」になる可能性が出てきたこと。自民と希望が票を奪いあって共倒れ……になってくれるのが一番おもしろいシナリオですけど、世の中、そうそう上手くはいかないからね。
 いまの感じだと、立憲民主党はそこそこの党になるだろうけど、野党第一党だった旧民進党ほどの勢力とはいえず、共産・社民・立憲という「小党派」チームで闘うという構図になりそうです。希望の党への100人以上の移籍は、小池と前原が画策した「リベラル潰し」だという説が流れていますけど、選挙後をみこすと、そんな気もしてきます。

3)安倍自民党の時代はいつまで続くのか
 小池新党には思ったほどの風は吹かないと言いましたけど、いろいろあって自民党が過半数割れした場合、安倍退陣の芽が出てくる。と同時に、自民は希望と大同団結して改憲を目指す(大政翼賛的になる)可能性が出てきます。
 ただ、即、改憲に行くとは思えないけどね。改憲発議なんか、そう簡単にできるわけない。一枚岩にみえる安倍自民党だって、まだ発議できていないんだから。
 ほんとは、辻元清美さんが言ってたように「小池新党と左右で挟み撃ちにして安倍政権を終わらせる」というシナリオがよかったと思う。しかし、小池新党はどうもそっち方向を向いてはいないので、最終的にはまた自民が勝って、もとのまま。
 最後はこうなるような気もします。野党がゴタゴタした分「やっぱ自公のほうが安定感があるじゃないか」という話になって自公が漁夫の利を得る。

 いろいろ考えてみましたが、どうもテンションが上がらないな。小池新党がバーンと立ち上がったときは、もうちょっといろんな可能性が見えてきたんだけどな。
 といっているあいだに、小池新党の公約の片鱗が、もれてきました。消費増税凍結、2030年までに原発ゼロ(中身はインチキくさいですが)が入るらしい。ううむ、これに流される有権者はけっこういそうだなあ……。
 だけど、もう面倒なので書き直しません。自民と希望と敵が二つもできちゃって、左派にはややっこしい選挙になりそうですが、せいぜい自公が大ダメージを被ることだけを期待している。で、しばらくは静観します。
 選挙後の所見については、今度は森君、あなたが書く番ですので。

10月4日 斎藤美奈子

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