現代書館

WEBマガジン 18/04/04


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第七十八回

件名:ショウジョウバエ、そして日本について          
投稿者:森 達也 

ここ数日、菊地さんから「そろそろ返信を」と何度か催促されている。まあそれ自体はいつものことだけど、でも特に政治状況については、今は本当に書く(あるいは公開する)タイミングが難しい。要するにこの先に何が起きるかわからない。国会はこのまま閉会するのか。9月の総裁選はどうなるのか、それ以前に大きな変動はないのか(いくつかのメディアで、森友・加計についてまた新たな疑惑がスクープされるとの噂もある)、あるいは視点を変えて北朝鮮、このまま融和の姿勢は進行するのか、アメリカのとの首脳会談は無事に行われるのか、などなどニュースを見たり新聞を読んだりしながら思い悩むけれど、不確定要素が多すぎて予測すらできない。
 でも安倍政権について、これだけは書いておきたい。
疑惑はまったく解明されていないし、本来なら今この瞬間に(あるいはもっと早く)内閣総辞職したってまったくおかしくない。使い古されたアナロジーだけど、鍋に入れられて少しずつ茹でられたカエルを想起する。もうとっくに跳びだすべき温度を超えているのに、長く少しずつ茹でられてきたから、身の回りの異変や違和感に気づけない。とにかく今の状態を保持することが優先事項となる。
 
とにかく床屋談義はしづらい。だから今回は閑話休題。写真を見てほしい。
アラビア半島に棲息するショウジョウバエの亜種らしいけれど、これには本当に驚いた。最初はフェイクかと思ったけれど、どうも実在するようだ。
https://matome.naver.jp/odai/2139174692951525201/2139177010167842903
 翅を震わせることで三匹の虫がいるように見えるとの解説を見かけたけれど、でもそれが天敵に対してどのような抑止になるのかよくわからない。仮に翅を攻撃されて失ったとしたら、それはそれでハエにとっては致命傷だと思うのだけど。
葉に擬態するコノハムシの形態や色も、葉の一部が欠けていたり枯れかけていたりなどとてもリアルで、やっぱり目にするたびに(多摩動物園で見れます)驚いたり呆れたり感動したりしていたけれど、このハエはそれ以上。これまでムシの形態で最も驚くべき進化の例はツノゼミかシュモクバエだと思っていたけれど、何らかの意思を感じるという意味ではそれらを上回っている(ただし意思は感じても意図がわからない)。
 ダーウィニズム的な解釈では、自然淘汰と突然変異が重なることでアルゴリズムが機能してこの形質を獲得した、ということになるけれど、そう言われても何かだまされているような気分をどうしても払しょくできない。たぶんこの感覚は、真空の相転移によってビッグバンが起きて宇宙が始まったとか、脳細胞の中でニューロンとシナプスが接合して電気信号や化学物質の受け渡しが行われることで人の思考や感情が形成されるとか、光速で飛ぶロケットの中では時間の進みかたが遅くなるなど、理屈はまあわかるけれどでもやっぱりどうにも釈然としない多くの命題と同じなのだろう。
 でもこれら一つひとつを本気で考え続けていては前に進めない。だからまずは感覚の違和感については見て見ないふりをして前に進む。
 たぶんこれが茹でガエルのアナロジー。本来なら立ち止まってこの違和感をしっかりと直視して対応しなくてはならないのだけど、何となく足を止めることができない。それが今のこの国だ。

……閑話休題のつもりだったけれど、結局は論旨が戻ってしまった。まあいいや。今回はここまでにします。

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