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WEBマガジン 19/01/16


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第八十七回

件名:性差別問題のいま
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

遅ればせながら、あけましておめでとうございました。
 昨年中に何か書くと菊地さんには約束して果たさず、年始早々に書くといってまた果たせず、結局15日まで引っ張ってしまいました。ごめんなさい!

 年末から年始にかけて、本来ならばあまりニュースがない時期であるにもかかわらず、性差別関係では、立て続けにいろいろな出来事がありました。
 2018年はどんな年だったか。あらためて振り返ると、わたくし的にはやはり「MeToo運動の年」だった、という印象が強いです。
 昨年も書きましたけど、財務省の福田事務次官のテレ朝女性記者に対するセクハラ発言は大きな波紋を広げ、結局、彼は辞任しました。そもそものキッカケは4月に報じられた『週刊新潮』の記事だったわけだけど、財務事務次官という要職にあった人物とはいえ、10年前、20年前だったら、これほどの大騒ぎにはならなかったかもしれません。やはり時代は(ようやく)変わりはじめたということでしょう。
 昨年は、私、セクハラの原稿ばかり書いていた気がするよ(苦笑)。

 で、昨年末から今年のはじめにかけての事案です。
 まず『週刊SPA!』2018年12月25日号の「ヤレる『ギャラ飲み』実況中継」と題する記事。「ヤレる女子大学生RANKING」として、ここには5大学の実名が上がっていた。4日に抗議の署名運動が立ち上がり、各大学も抗議の声明を出して、編集部は謝罪に追い込まれた。

  あとは、安藤サクラを起用して、顔にクリームたっぷりのパイが投げつけられた「西武・そごう」の広告(朝日と日経の元旦紙面にも全面広告が載った)とか。
https://www.sogo-seibu.jp/watashiwa-watashi/

 下着販売会社「ピーチジョン」のサプリメントの広告(「こっそり飲ませる 表向き恥ずかしいと思うなら、お料理やお菓子にこっそり色仕掛け」などと書かれていた)とか。
 ネット上で批判の嵐が巻き起こったのも、当然だったと思います。

 さらにはNGT48(新潟にこんなアイドルグループがあるなんて知らなかったよ)のメンバー山口真帆さんへの暴行事件ですよね。これは「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしたアイドルビジネスそのものに一石を投じる事件だったと思う。
 アイドルって、やっぱり「性の商品化」に通じる部分があってさ、危険と隣り合わせのところがあるでしょ。未成年の女の子に握手会をさせるとか、セキュリティの面から考えると、やっぱりどうかと思うよね。

 といった「巷のニュース」以外だと、私に近いところでは、『DAYS JAPAN』の広河隆一前編集長の性暴力事件が、年末に発売された『週刊文春』で明らかになった。ボランティアスタッフなど7人の女性に対して性を強要していたという、かなり悪質な事案です。これは予想外の出来事で、正直、ちょっと驚きました。『DAYS JAPAN』に私は創刊まもない頃から15年近く連載をしているので、他人事ではありません。
 これについては、次号の『DAYS JAPAN』(広河事件とは関係なく『DAYS』はこの号を最後に休刊が決まっています)で書くつもりでいるので、詳細は控えますが、ひとつだけ言っておくと、これはいわゆる「文春砲」とは少しちがうということです。
 「MeToo」案件、というより「With You」案件というべきかな。
 要は「内部告発」なんだよね。
 『文春』にこの記事を書いた田村栄治さんも自ら書いていたように、彼は広河隆一氏の仕事と『DAYS JAPAN』に共鳴し、彼らと近いところで編集の手伝いをしていた。その過程で、よくない噂を聞き、ジャーナリストとしてこのまま放置していていいのだろうか、という内省から、被害者に対する取材をはじめ、記事にして、今もっとも訴求力があるだろう『文春』に掲載できないかを相談をした。
 田村さんの新しい原稿では、なぜこの件が放置されてきたかが考察されています。
https://www.businessinsider.jp/post-182763

 ここでもかつてのスタッフの 「『DAYS JAPAN』のボランティア仲間たちには『DAYSを支えよう』という熱意が強かった。それに水を差したくないという思いもありました」
という声が紹介されていますけど「周囲がネガティブ情報を封じ、否定しようとする」動きは、どんな組織にもあることで、内部告発は、それほど難しい。
 それでも、この件が表に出て、ほんとうによかったよ。

 話は変わりますが、いまフェミニズムが元気なのは韓国です。
 背景には、「江南駅通り魔事件」(2016年5月、ソウル市内の江南駅付近の商業ビルのトイレで、当時23歳の女性が見知らぬ男に殺害された)という事件があったらしいのだけど、フェミニズム関連の本の日本語訳も、続々と出版されている。
 いまの韓国、あるいは性差別的な記事や広告に対する日本の反応を見ていると、70年代を思い出します。田中美津さんや、「国際婦人年をきっかけに行動を起こす女たちの会」の時代ですね。とかいっても、若い人たちわかんないだろうな。
 逆に言うと、この30年、日本のフェミニズムはこの30年、何をやってたんだろうと思わざるをえない。そのへんについて筑摩書房のPR誌『ちくま』に書いた原稿の一部を引用しておきます。

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 日本で第二波フェミニズムが産声をあげたのは70年代初頭。いわゆるウーマンリブである。『82年生まれ、キム・ジヨン』(註・韓国の小説です)が描きだすような、家庭や学校や職場における性差別は、この運動を通じてほとんど暴き出されたはずだった。
 80年代に入るとフェミニズムという言葉が一般化し、女性学の研究が進んで、大きな成果を上げた。こうした運動や研究の達成として、1986年には男女雇用機会均等法が施行され、99年には男女共同参画社会基本法が成立。90年代以降は、家庭科の男女共修が実施され(中学校は93年。高校は94年)、育児休業法(92年。95年に育児・介護休業法に改正)、ストーカー規制法(2000年)、DV防止法(2001年)といった法的整備も進んだ。つまり韓国と比較しても、フェミニズムに関して日本は一日の長があるはずなのだ。
 しかし、現実を見れば、日本はけっして男女平等先進国ではない。2018年のジェンダーギャップ指数は、149か国中、日本は110位、韓国は115位で五十歩百歩。さらにいえば、『キム・ジヨン』に該当するようなフェミニズムの入門書があるかというと、とっさに書名が思い浮かばないのである。
 もちろん、田中美津『いのちの女たちへ』(1971年)のような歴史的名著もあれば、『セクシィギャルの大研究』(1982年)ほか上野千鶴子の一連の著作も、『セックス神話解体新書』(1988年)ほか小倉千加子の一連の著作もあるけれど、これらが出版されたのは30年以上前で、入門書としてはさすがに古い。もしかしてKフェミの本が売れているのは、Jフェミの「30年の空白」を埋める役目を果たしているからではないか。
 韓国よりもスタートが早かった分、日本のフェミニズムは2000年前後に、保守系の論壇や政治家によって「ジェンダーフリー・バッシング」という大きなバックラッシュ(反動)の波をかぶった。フェミニズムに対する激しい攻撃が、この方面の出版活動を鈍らせ、結果的に若い世代を置き去りにした感も否めない。
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 日本語の新しい入門書、いま出せばきっと売れますよ。 
 いかがでしょうか、菊地さん。

斎藤美奈子

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