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WEBマガジン 21/10/27


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第120回

件名:皇族の結婚
投稿者:森 達也

美奈子さま

 前回の美奈子さんの書簡は自民党総裁選の結果から始まったけれど、一カ月後のこちらのターンに重なるのは衆院選。あと4日で結果は出る。ならば結果を踏まえてから書いたほうがいい、と思わないわけでもないけれど、菊地さんからの催促も頻繁になってきたし、なんとなく正面から床屋談義するテンションもない。
 26日の朝日新聞は一面で、自民党は多少は議席数を減らしても単独過半数は維持するだろうと予想している。僕もそんな気がする。朝日の記事は、そんな気がするとのレベルではなくて、記者たちの取材の感触と38万人の有権者を対象に行った調査の結果だから、大きく外れることはないだろう。
 もちろん選挙は水ものだけど、少なくとも政権交代は起きない。その勢いを感じない。つまり今後もこの国の景色は変わらない。
 こんなことを投票前に書くことは、意味がないというか見方によって悪質でさえあるけれど、でもテンションは下がるばかり。
 だから今回は、床屋を離れて別の店に行く。眞子さんの結婚。昨日(26日)の記者会見数日前から、メディアの論調が微妙に変わってきた。小室さんが帰国したころは髪が長いとか言葉が足りないなどと一色だった批判的な論調が、おめでとう的なニュアンスに変わってきた。
 これについて、メディアが皇室の権威に負けたと論じる意見をネットで見かけたけれど、もちろんそれは違う。メディアは社会に負けたのだ。4年前の週刊文春のスクープをきっかけに号砲が鳴って小室さん(とその母親)批判を社会(というか世間)は熱烈に支持したけれど、眞子さんが「複雑性PTSD」と診断されるほどに追いつめられていることを知った社会の温度が急激に変わり、あわててメディアは歩調を合わせる、という展開になった。
 菊のタブーはメディアにおいて最も強いタブーと言われている。でもその力の源泉は決して皇室の権威ではなく、市民の側における「不敬は許さない」とする意識と実践だ。中央公論や朝日新聞や噂の真相にテロ行為を仕掛ける右翼たちだって市民だ。
 つまりメディアは(皇室報道については)ずっと社会に屈している。
 まあ、当たり前と言えば当たり前だけど、その事実を今回はあらためて実感した。昨日までの眞子さまは今日から眞子さん。何か変だな、と思う気持ちをもっと凝視すべきだ。違和感を解析すべきだ。
 さらに言えば、今の皇后や上皇后も、かつて社会(とメディア)から激しいバッシングを受けて体調を崩した時期があった。明らかに日本が抱えるジェンダーの問題の本質が、千代田区一丁目一番地にごろりと剥きだしにされている。それはそうか。皇室の背骨は神道。つまり穢れと浄め。だから女系天皇を認めない。神事に女性は加われない。女性は土俵に上がることはできない。それが今もまかり通る。
 だからこそ首相時代に「日本は天皇を中心とした神の国」と公式な場で発言した森喜朗元首相は、これまで女性に対して「子供を作らず自由を謳歌したのに税金で面倒見るのはおかしい」とか「話が長い」とか「女性っていうのは競争意識が強い」などと失言を繰り返してきた。
 だって自民党は神道政治連盟国会議員懇談会の巣窟。現在の会長は安倍晋三。だからこそジェンダー解決に本気にならない。選択的夫婦別姓にも消極的。論理じゃない。神話への回帰。ノスタルジーが源泉。守りたいのは日本古来の家長制度。投票用紙は選挙権を持つ一人ひとりではなく、家長宛てに送られてくる。タリバーンかよ。何が違うのか、と思う。
 そしてその自民党が一強となる政治状況は、たぶん今後も変わらない。それは(僕も含めて)国民の選択。
 小室さんと眞子さんは、4年にわたって(しかも3年間会わない時期もあった)純愛を貫いた。でも社会とメディアは、二人はいずれ破局すると高をくくっていたと思う。だからこそ安心して攻撃できる。でも二人の愛は変わらなかった。
 できるならネットフリックスでドラマにしたい。タイトルは「ロイヤルラブ」。二人の純愛を邪魔する敵役は、この国の制度とメディア、そして(僕も含めて)国民一人ひとりだ。

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