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WEBマガジン 22/08/01


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第129回

件名 :7月の動乱
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 この7月は、たいへんな月でした。
 参院選の前々日、8日に奈良での応援演説中に、安倍前首相が銃で撃たれて死亡。その場で逮捕された容疑者の母が旧統一教会の熱心な信者だったことが判明し、その余波で、自民党議員と統一教会の底なし沼のようなズブズブの関係が露呈しました。もっか「政治と宗教」はこの国の最大の関心事に浮上しています。
 自民党(ことに清和会)と統一教会との癒着の関係は、もともと「周知の事実」に近いものがありましたが、関わりのあった現職の国会議員は100人以上といわれ、あらためて次々出て着る映像資料などを見せられると、やはり唖然とします。この国の政治はカルト宗教団体(といっていいでしょう統一教会は)に牛耳られていた! こういうことは貴君のほうがずっと詳しいと思うので、ぜひ意見を聞きたいと思っていますが、ともあれ、暗澹たる気分です。
 
 岸田内閣が安倍氏を「国葬」にすると閣議決定したことも、国論を二分しています。岸田会見(あとで引用)を読むと、安倍元首相の国葬は、手続き上も、憲法(国民主権・法の下の平等・思想良心の自由)に照らしても、やはり「民主主義にもとる暴挙」に思えます。「民主主義を断固として守り抜く決意」としての国葬だみたいなことをいってますけど、逆だよね。

 7月の大きなニュースとしては、もうひとつ、五輪組織委員会の高橋治之元理事が、大会スポンサーのAOKIから多額の金銭を受け取っていたとされる受託収賄事件があげられます。元理事が電通の専務だったことから、電通にも家宅捜索が入りました。2013年の東京開催決定時の「アンダーコントロール」発言以来、不祥事続きの五輪ですけど、いよいよ本丸に近づいてきた気もします。
 五輪に限らず、政権と電通の癒着は、統一教会との癒着と同じくらいの「闇の構造」です。東京地検は本気でここにメスを入れるつもりなのでしょうか(あまり信用していない)。なぜこのタイミングだったのか。もしかしたら「安倍の重石」がとれたためなのかと邪推しそうになります。

 その一方で、ぼやぼやしてたら、7月のやはり参院選のあたりからコロナ感染者が急増。「第7波」の到来で、国内感染者数は23日に1日20万人を突破し、死者数も1日100人超が続いています。東京都の感染者数も21日 に1日3万人を超え、28日には過去最多の4万人超となりました。
 オミクロン株(BA.5)は感染力は高いが、重症化率は低いと喧伝されており、感染者数の一喜一憂しても仕方がないという雰囲気が濃厚でしたが、ここまで数が増えると、やはり放置できません。 
 ところが岸田首相は「経済を回す」というばかりで、ほんとうに何の手も打っていない。結果、病院はまたも医療崩壊寸前の事態に陥り、公共交通機関や郵便局などのインフラにも影響が出て、経済を回すという目的のために経済が回らなくなりつつある。何をやっているのでしょーか。
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 で、その岸田首相が何を語ったかというと……。
 備忘録として、 14日の記者会見の内容を官邸HPから引用しておきます。
 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0714kaiken.html

★国葬をやると力強く宣言
 「安倍元総理におかれては、憲政史上最長の8年8か月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために内閣総理大臣の重責を担ったこと、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を様々な分野で残されたことなど、その御功績は誠にすばらしいものであります。
外国首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けており、また、民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行により逝去されたものであり、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられています。
こうした点を勘案し、この秋に「国葬儀」の形式で安倍元総理の葬儀を行うことといたします。安倍元総理を追悼するとともに我が国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示してまいります」
 
★コロナ対策は特に何も考えていないと暴露
「新たな変異種BA.5への置き換わりが進む中で、更なる感染拡大に最大限の警戒が必要です。
他方、政府、自治体では、こうした状況が起こり得ることを想定し、強化してきた医療体制を維持しています。感染者数は増えていますが、今のところ重症者数や死亡者数は低い水準にあります。病床使用率も、上昇傾向にあるものの、総じて低い水準にあります」
「政府としては、病床の確保、高齢者施設における療養体制の支援、検査体制の強化、治療薬の確保など医療体制を維持・強化しながら、引き続き最大限の警戒を保ちつつ、社会経済活動の回復に向けた取組を段階的に進めてまいります。
私たちは、これまで6回の感染の波を乗り越えてきました。その中で、日常生活、経済活動における感染防止への取組、科学的な知見の積み重ね、そして医療体制を始めとする政府、自治体の取組など、我が国全体として対応力が強化されています。まずは強化された対応力を全面的に展開することで、新たな行動制限は現時点では考えていません」
「高齢者などリスクの高い方々を守り、医療提供体制の人員を確保するため、関係審議会に諮った上で、全ての医療従事者及び高齢者施設の従事者約800万人を対象とし、4回目接種を行うことといたします」

★ついでに猛暑をタテに原発の再稼働促進も示唆
  「熱中症も懸念されるこの夏は、無理な節電をせず、クーラーを上手に使いながら乗り越えていただきたいと思います。
しかしながら、この冬については再度需給逼迫(ひっぱく)が起こることが懸念されています。何としてもそうした事態を防いでいかなければなりません。私から経済産業大臣に対し、できる限り多くの原発、この冬で言えば、最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保するとともに、ピーク時に余裕を持って安定供給を実現できる水準を目指し、火力発電の供給能力を追加的に10基を目指して確保するよう指示をいたしました」
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 その後、首相が統一教会の問題について(はじめて)言及したの31日でした。
「社会的に問題になっている団体との関係については、政治家の立場からそれぞれ丁寧に説明をしていくことは大事だと思っています。それぞれ、様々な説明をおこなっているようですが、国民の皆さんの関心も高いわけですので、丁寧な説明をおこなっていくことは大事であると思います」
 あんたは誰なんだ、という感じでだよね。「丁寧な説明をおこなっていただきたい」という要望ですらなく「大事であると思います」。評論家よりもまだ悪い傍観者。不祥事の真っ只中にいる党の最高責任者なんだから、筋からいえば「私が責任をもって丁寧な説明をおこなわせます」でしょう、せめて。
 
 コロナ第7波に関しての(少しだけ)新しい見解を示したのも31日でした。
「感染が拡大しているこのタイミングで感染症法上の位置づけを変更することは考えていない」が、「感染者が急増している「第7波」の収束後に感染症法上の扱いを、現行の「2類相当」から引き下げる検討を進める考えを示した」。
  いつになるともわからない 「第7波収束後」の話をしているわけです。29日には、都道府県に「BA.5対策強化宣言」を新設はしたものの、これも自治体に丸投げで、他人事感は否めない。 
 安倍菅政権時代の行動制限がよかったとはお世辞にもいえないものの、行動制限はかけずに自己責任で対処せよというやり方は「感染しても自己判断で、できれば自宅で療養してね」「店の客が減ったり営業ができなくなったりしても休業補償はしないから」ってことでしょう。2類だから医療が逼迫するという議論が出るのもわかるけど、現在の政府の下でコロナを2類から5類に引き下げたら、ますます自己責任度が上がるのは必定に思えます。

 それやこれやで、共同通信社が30、31日に実施した全国電話世論調査では「そりゃそうだろう」な結果が出ました。安倍元首相の国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%で、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計45.1%を上回り、旧統一教会と政界の関わりについて実態解明の「必要がある」は80.6%、「必要はない」は16.8%。岸田内閣の支持率は51.0%で前回調査(7月11、12日)から12.2ポイント下落しました(昨年10月の内閣発足以来最低)。
 安倍・菅政権に比べると、国論を二分するほどの大きな政治的案件もなく、参院選でも大勝して安定的に見えていた岸田政権ですが、ここへ来て、暗雲がたちこめはじめた。コロナ第7波と、五輪がらみの受託収賄についての質問は設定されていなかったようですが、これらも支持率急落の原因に入っているのではと推測されます。

 「モリ・カケ・サクラ」は、安倍政権時代に噴出した3大疑惑案件でした。が、いまから思うと、これはもっと根深い疑惑(というか闇)の前哨戦ではなかったかという気がしてきます。
 コロナ禍対策(無策)を別にすれば 、安倍亡き後に浮上した、岸田政権をゆさぶる3大案件は、「国葬・カルト(統一教会)・電通(五輪)」です。首相はもっか「私は当事者ではいない」という顔で乗り切ろうとしているように見えますが、国葬に関しては当事者で、その国葬も電通が仕切るとの噂。野党やメディアはどこまで追及できるのか。民主主義を取り戻す、いまがほんとの正念場かもしれません。

斎藤美奈子

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