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WEBマガジン 23/04/03


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第137回

件名:岸田「必勝しゃもじ」で考えたこと
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 書くことが何も思い浮かばず(ほかの仕事にも追われてたんだけど)、ぼやぼやしてたらついに三月は過ぎ去り、4月3日となりました (すみません、菊地さん)。
 前回の貴君のシベリアで遭難した話は、なかなか強烈でしたが……。
 ウクライナを電撃訪問した岸田首相が「必勝しゃもじ」を土産に持参したというニュースにはさすがに「なんだそれは」と思いましたね。

 〈日本も含めて西側世界はウクライナ応援一色。兵器をどんどん送る。支援しなければウクライナは占領される。でも本当にこれでいいのか。最新鋭戦車レオパルト2をウクライナに送ることにドイツは逡巡したけれど、結局は西側諸国からの圧力に屈して供与を決定した。/今の国際世論のありかたについて、これで本当にいいのだろうかと時おり不安になる〉
 という貴君の懸念には私も共感します。
 小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書)はもっか、もっともわかりやすく包括的に書かれたウクライナ情勢についての本かと思いますが、そこで著者は〈今回の戦争に関しては「ウクライナを無垢の絶対的善として描くだけでよいのか、ロシアは絶対悪なのか」といった議論が度々提起されてきた。この主張を、筆者は一概に否定するものではない〉と述べている。しかしながら、〈今回の戦争はロシアによるウクライナへの侵略戦争であり、この点においてもロシアは明確に国際的な規範を犯している。これらの点を無視して、ロシアにもウクライナにも同程度に非がある、と論じるならば、それは客観性を装った悪しき相対主義でしかない〉とも。
 その通りだと思う。しかし、さすがにもう、どこかで戦争終結への道を探らないとマズイだろ、とはみんな思ってるわけじゃない?

 〈立憲民主党の石垣のり子氏が「選挙やスポーツではない。日本がやるべきはいかに和平をおこなうかだ。必勝というのは不適切」と批判した〉のは当然だとしても、単に「不適切」とか「センスが悪い」とか「選挙対策だろう」とかだけが問題なわけではない。
 岸田首相はNATOに急接近しているのが、私には気持ち悪い。というか首相はNATOの一員扱いされたいのだろうね。ロシアのウクライナ侵攻は容認できないとしても、その裏返しのように「NATO=正義」という図式が当然のように成立しているのはどうなのか。
 ここに「台湾有事」とか「敵基地攻撃能力の保持」とか「防衛費43兆円」とかがくっついてくると嫌な予感しかない。

 話は少し飛びますが、南西諸島の軍事基地化も着々と進んでいて、「自衛隊・防衛省」のHPにはこんな文言が載っている。https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/mage/

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■馬毛島(まげしま)における施設整備について
★馬毛島に自衛隊施設を整備する必要性
我が国を取り巻く安全保障環境は格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増しています。我が国の周辺には、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事活動の活発化が顕著となっています。
★我が国島嶼部に対する攻撃への対処等のため、南西地域に自衛隊の活動・訓練拠点を整備
南西諸島は南北に長大ですが、自衛隊の施設は限定されており、自衛隊の活動・訓練拠点の「空白地域」です。緊急時の活動拠点、平素の訓練拠点が必要です。馬毛島に自衛隊基地ができれば、我が国の平和と安全に非常に大きな意義があります。大規模災害発生時には、この地域における救援活動が、より的確に行えるようになります。
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 なーにが「大規模災害発生時の救援活動」よって感じです。
 先日、知人が「岸田政権が急に少子化対策に力を入れ出したのはなぜだと思う?(実効性はともかく)」といいだして、彼の説では「このまま行くと自衛隊員=戦闘要員が決定的に不足するからだ」と。たとえば今後、どこかで徴兵制(的なもの)が敷かれるとして、その場合は「男子のみ」ではすまず、たぶん軍事も「男女共同参画」になるだろう。自衛隊がこのところ、あわててセクハラ対策に乗り出したのも、自衛隊のイメージダウンを食い止めないと、自衛隊離れがますます加速する。だからあんなに政府は焦っているんだというのです。
 まあ、そうかもなとは思いますね。

 ウクライナに話を戻すと、岸田がウクライナを電撃訪問した日には、習近平がロシアを公式訪問して、プーチンと会談してるんだよね。
 中国が2月24日に公表した12項目の和平案「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」には、〈「すべての国の主権を尊重」、「敵対行為をやめる」、「和平交渉の再開」、「一方的な制裁の禁止」などが盛り込まれて〉おり、〈ウクライナ侵攻を巡る和平交渉に関しては、ロシアは中国のウクライナ問題に対する「客観的で公平な立場」を、一方、中国はロシアの「和平交渉の早期再開に向けた意欲」を、双方が評価した〉と報道されています。ゼレンスキーは「中国がウクライナ独自の和平案を考慮せず作ったものだ」といってますけど。
 今の日本がとてもそういう風に動くとは思えませんが、こういうときに米国一辺倒、NATOに急接近という姿勢はどうなのか。NATOがアジアの方向に勢力を拡大してきているような気がどうしてもします。
 あまりおもしろいことは書けませんでしたが、今日はここまで。

斎藤美奈子

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