現代書館

WEBマガジン 26/07/31


web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第177回

件名:戦後民主主義を破壊する2法案
投稿者:斎藤美奈子

森 達也さま

 7月25日 第221回特別国会が閉会しました。
 報道によると、政府が提出した64の法案がすべて成立したそうですが、ろくでもない法案ばかりを、ろくに審議もせずに通しまくった、史上希に見るろくでもない国会でしたね。
 高市早苗が政権を取ったらヤバいことになるだろうとは予想していたものの、彼女はもう少し計算高い頭の切れる人(であるが故に危険な存在)だと思ってた。
 見立て違いでした。何の定見もない、計算もできない、ただのア○やった。
 国会には出てこないわ、たまに出てくると意味不明な自己主張でお茶を濁すわ、サナエトークンや中傷動画に関する疑惑は知らぬ存ぜぬで通すわ、なのにSNSではアイロンかけや風呂の掃除で忙しく毎日1〜3時間しか寝ていない(←大意)などと訳の分からぬ報告はするわ。
 いったい、あんたは誰やねん。総理大臣ちゃうんかい。
 自民党を大勝ちさせ、ア○な連中に政権をとらせると、こういうことになるのだ、という見本のようです。連立相手が公明党から維新に変わったのも、ア○さに拍車をかけている。自民党に投票した有権者に少しは反省しろといいたいです。
 
 さて、もろもろの問題法案の中でも、この政権のカルト性が炸裂し、批判が殺到したのが、国旗損壊罪と改正皇室典範の二つでした。国会ではたった数時間の短い審議であっというまに成立したものの、この2法案は国会外での議論が活性化した点に特徴があります(議論はまだ続いています)。
 なぜだったのだろうか。理由は二つあるように思います。

 第1に、あまりにも時代錯誤で、常軌を逸した法案だったこと。第2に、国旗も天皇制も、じつは戦後たびたび議論の的になってきた案件であること。
 別言すると、日の丸も天皇制も戦前のファシズムの象徴で、戦後の再出発にあたり、日本は再定義を迫られたわけだよね。象徴天皇制は、それで生まれた制度だった。
 とはいえ、昭和天皇が存命だった時代には、天皇の戦争責任を問う声が絶えなかったし、日の丸を燃やすというような「事件」が沖縄で起こったりした。80年代の末までの日本人は「戦争の影」をひきずっていた。つまり日の丸も天皇も、負の歴史をふり返るツールとして機能していたわけですよね。
 それが平成の時代に入って、大きく変わった。「飼い慣らされた」ともいえますが。

 1999年に国旗国歌法が制定された頃までは、反日の丸や反君が代の思想も生きていたけど、今日、この旗にネガティブなイメージを持っている人は少ないでしょう。オリンピックでもワールドカップでも、みんな、顔に日の丸のシールを貼って日本チームを応援してたりするわけで、よいか悪いかはともかく、天皇制ファシズムの影はほぼ払拭されたといってもいい。
 天皇制も同じで、かつてのサヨクは「天皇制廃止」が絶対的なテーゼだったじゃない? でも平成以降はそうでもない。すでに指摘されている通り、これは明仁天皇(現上皇)夫妻が「象徴天皇制」とはどうあるべきかを自分なりに考えて、戦地への「戦没者慰霊の旅」や被災地訪問を実行に移してきた結果ですよね。令和の徳仁天皇も、いちおうその平和路線を継いでいる。いまとなっては、軍拡路線の政権の歯止めとして、天皇が機能しているのではないかと思うくらいです。

 ということを考えると、何の問題も起こってないのに国旗損壊罪を新設するとか、男系男子継承にこだわって、女性・女系天皇を排除する改正皇室典範を成立させるとかいうのは、戦後民主主義の破壊行為としか、いえないわけですよ。わざわざ寝た子を起こしてまでこの2法案を強引に成立させたのは、旧統一教会や日本会議の圧力のせいなのか、あるいは彼らが戦前回帰を本気で狙っているためなのか。
 特に興味深いのは、皇室典範だよね。
 もとはといえば、私も天皇制廃止論者だけどさ、と同時に「愛子天皇だとなぜいけないの?」とも思うのね。こういうことを言うと、筋金入りのフェミニストにはドヤされると思うんだけど(天皇制自体が家父長制の根幹を成す差別的な制度なんだから、まあ当然なんですが)、少なくとも、600年前に分かれたどっかの旧宮家の男をどっかの宮家の養子にしてまで男系男子を保とうとするカルトな男尊女卑思想よりは、あるいは天皇制をいきなり廃止して軍国化への歯止めをなくしてしまうよりは、愛子天皇のほうが100倍いいよ。
 余談ですけど、天皇という職業にも向き不向きや資質があるとしたら、愛子内親王はあるゆる面で、皇太子にふさわしい資質を備えている。子どものころは「笑わないプリンセス」などと呼ばれて心配されたくらいだから、成長過程でそのような資質を身につけてきたのだろうけれど、天の配剤としか思えません(天照大神の神通力かも。冗談です笑)。

 前回、新聞にはまだ期待しているという話をしましたが、皇室典範については、いつになく、新聞ががんばったよね。産経新聞以外の全国紙、北國新聞以外の地方紙が、こぞって今改正(の特に養子案)に反対したことは、記憶にとどめておくべきかと思います。改正皇室典範が成立した翌日(7月18日)の各紙社説はこんな感じ。

・読売新聞……象徴天皇制の根幹を傷つけた
・朝日新聞……時代錯誤の「物語」賛同できぬ
・毎日新聞……象徴天皇の土台揺るがす
・日経新聞……皇室の未来へ総意探る議論を続けよ
・東京新聞……天皇制揺るがす暴挙

 この件に関しては右も左も関係ないってことが、よくわかります。
 しかも、女性天皇(実質的には愛子天皇)の擁立に、もっとも熱心な新聞は読売、もっとも熱心な政党は共産党、という通常あり得ない事態が起きているのが、おもしろい。
 もうひとつおもしろいのは、改憲に熱心な保守系のメディアや論客が、憲法1条の「国民統合の象徴」「日本国民の総意」といった文言を盾に、女性天皇容認論を唱えていること。保守の人たちが憲法に依拠した論陣を張っているだけでもおもしろいのだけど、憲法は1条も使えるやつだったのだと、あらためて感心します。緻密にできてるってことだよね。
 そんなわけで、高市内閣の支持率もさすがに落ちてきました。

 読売新聞、7月24〜25日の世論調査では、内閣支持率57%で前月から12ポイント下落。また「皇室典範を再び改正して、女性の天皇を認めること」(→かなり踏み込んだ質問)に「賛成」は85%、「反対」は8%だった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4caed0a509d21d9b670e4664ba4f81f4fbf0d6a3
https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20260726-GYT1T00168/

 共同通信、7月25〜26日の調査では、内閣支持率は53.7%で前月から2.1ポイント下落。また「女性天皇を認めること」に賛成は81.0%、反対は16.1%だった。
https://www.47news.jp/14687563.html
https://www.47news.jp/14687549.html

 支持率が落ちていることについて「原因はわからない」と答えた高市首相ですけど、それがわからないようではますます先が思いやられます。高市政権、いつまで持つのでしょうか。いい加減、うんざりです。

斎藤美奈子

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